2017年02月11日

書評 第11回小説現代長編新人賞 『お師匠さま、整いました!』

第11回(2016年)小説現代長編新人賞受賞作
『お師匠さま、整いました!』 泉 ゆたか

出版されるにあたり、大幅改稿されたらしく、選評と違っているところが見られます。

年の離れた算術家の夫に先立たれた24歳の桃を語り手に、桃の寺子屋の二人の生徒――両親を災害で亡くした15歳の春、良家の才ある子女・鈴――を描きます。

和算を扱いうのですが、師匠の桃が苦手で、春と鈴が才能をめきめきと伸ばすという趣向によって、葛藤や衝突、人間のあざとさが浮かび上がってきます。小説の中で繰り返し説明し過ぎるところもある一方、なぜ学問に情熱を持てない桃が寺子屋の師匠の座を守るのかはあまり触れられません。この辺りを深く描くと、もっとおもしろくなったでしょう。

また桃が濁流にのまれた春を救うのは、ムリがあり過ぎますし、その後、なぜ平助に嫁ぐのかがわかりません。

ただ三人の女性のキャラクターと生き方、関係性を描き出そうとするのは成功しています。特に春に対して終始温かく描き、魅力的なキャラクターに仕上がっています。

文章もすらすらと読みやすく、わかりやすい。落雁や西瓜のエピソードなどは女性作家らしい細やかさで、印象に残りました。



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2017年02月01日

書評 第3回新潮ミステリー大賞 『夏をなくした少年たち』

第3回(2016年)新潮ミステリー大賞受賞作
『夏をなくした少年たち』 生馬直樹

小学六年の拓海、啓、雪丸、国実は小学校時代最後の想い出づくりのために、町の花火大会の日、立ち入り禁止の山に入り込み、そこで国実の4才の妹殺害事件に巻き込まれます。

その犯人探しがミステリーとなるのですが、それ自体はやや唐突で、動機も弱く、伏線もわかりやすく、リアル感がありません。

しかし、この4人の造形と、この時代の少年少女の心理の移り変わりを読ませます。頭もルックスも性格もいい啓に憧れると同時に諦めを抱く拓海は、繊細で優しい。忙しい両親に代わって妹の面倒を見る国実はいいお兄ちゃんで、しかし友人との付き合いの間に挟まれ、苦しみます。傍若無人な雪丸はやがて皆から相手にされず、「幼い少年」とレッテルを貼られます。

小学6年というタイムリミットのなかで少年たちが生き生きと描かれ、『Stand by me』を髣髴とさせる夏休みの少年物語として立ちあがっています。小説すばる新人賞受賞作のような読み応え。

第2部で20年後の現代となり、刑事となった拓海がある男の殺害事件の担当となりますが、それが20年前の少女殺害事件の真相へと繋がっていきます。

現代の物語は予定調和で、殺人事件の犯人も、物語の展開も読めてしまうのが残念です。

ただ4人のこれからを展望させる閉じがとてもいい。人と人との関係性をリアルに、繊細に描いたデビュー作なので、次作にも期待がかかります。



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2017年01月04日

書評 第23回日本ホラー小説大賞優秀賞 『きみといたい、朽ち果てるまで』

第23回(2016年)日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作
『きみといたい、朽ち果てるまで 〜絶望の街イタギリにて』 坊木椎哉

タイトル通り「朽ち果てるまで」の展開には驚きましたし、そこからの表現力、描写力の高さに惹きつけられました。

無法地帯の町「イタギリ」で、ゴミ集めの仕事に従事する無国籍の少年晴史。ゴミの中には死体も含まれ、晴史が組む竹林老人は管理組合の職員から優先的に賃金のいい死体処理を回してもらえるため、その仕事が多い。

イタギリにも歓楽街があり、その極楽通りに似顔絵かきの少女が座っています。いつからか晴史はこの少女に惹かれるようになりますが、彼女もまたイタギリの多くの女や少女がそうであるように売春を目的とした「物売り」の一人です。

どこまでいっても暗く、救いのない人々の営みが連なり、連続殺人事件が起き、さらに少年の未来へのささやかな希望も現実の前につぶされていきます。

セクシャルマイノリティの竹林老人、小説家志望の樹戸、記憶障害をもつ月丸、元ヤクザの住職など、濃いキャラクターが物語の彩りとなっています。

貧困と無知のために少女は混乱し、やがて自ら命を捨てます。そんな少女に少年は寄り添い続けます。

オリジナリティはあまり感じませんでしたが、ひとつの世界を描き出そうとする力、それを支える筆力を感じさせる受賞作でした。



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2017年01月01日

書評 第8回朝日時代小説大賞 『慶応三年の水練侍』

第8回(2016年)朝日時代小説大賞受賞作
『慶応三年の水練侍』 木村忠啓

勤王派と佐幕派がせめぎ合う幕末に、17年前の火薬爆発事故の禍根を抱く若者と、藤堂藩砲術師範の市川清之介とが水術で対決します。

そんな悠長なことをしてていいのかと思いますし、政治思想をコロッと変え勤王派に寝返った藤堂藩の裏事情に絡めていますが、少々わかりにくい。

ただひたすら、清之介が伊賀者について水術の鍛錬をする二カ月がおもしろい。近代の鍛練法など知らないはずなのに、妙に理にかなった訓練法が次々に展開されます。ここには著者の創造性がうかがえ、楽しませてもらいました。

伊八と国兵衛の人物造形も役割分担もおもしろく、淡々としていながら読者を引き込む力があります。

二度の火薬庫の爆発事故や、兄と慕った谷口善之丞の死亡事故も、災害の多い現代とリンクし、決してよそ事には感じられません。

欲を言えば、善幸に清之介が最後までやられ続けたのが不満です。少しはこの思い上がった若者に、世の中はままならないものだということを清之介が示してほしかった。

著者はスポーツ時代小説というジャンルを確立したいそうですが、薀蓄を物語に落とし込むのに成功しています。是非、これからもユニークな時代小説を読ませてほしい。




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2016年12月14日

書評 第6回アガサ・クリスティー賞優秀賞 『花を追え』

第6回(2016年)アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作
『花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮』 春坂咲月

少女マンガ的な始まりで、これがアガサ・クリスティー賞? と危惧したが、どんどんおもしろくなっていきました。

篠笛教室という渋い趣味の、飾り気のない女子高校生八重と、着物をこよなく愛するイケメンの琥珀の恋愛に、八重の父親の冤罪と八重自身の謎に迫るミステリーをかけています。

着物の薀蓄が物語の雰囲気を醸し出すように織り込まれ、自然と日本人ならではの感性を呼び起こします。第一話はもうすこしコンパクトにまとめられたらいいのですが、着物の言葉遊びや洒脱さなどが楽しく描かれています。

ワケありの美青年琥珀が八重に惹かれる理由が今ひとつ納得できないのですが、それをつっぱねる八重の言動がなかなか男らしく(笑)、痛快。うまくいきそうで、いかない恋の行方がいい。

また文章力も高く、新人離れした読みやすさとわかりやすさ。それぞれのキャラクターも活きています。最後はややご都合主義なのが残念。

さらさらと書かれた小説ですが、捨てた題材やガジェットも多かったのではないでしょうか。次作も期待したい新人作家です。




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