2017年03月16日

書評 第29回小説すばる新人賞『星に願いを、そして手を。』

第29回(2016年)小説すばる新人賞受賞作
『星に願いを、そして手を。』 青羽 悠

あまーいタイトルから不安はありましたが、内容もあまいもので、どうしてこの作品が受賞したのかわかりません。

中学時代の同級生祐人、春樹、理奈、薫の4人は、25歳で再会をします。毎日一緒に過ごしていた仲良しでも、この頃になるとほとんど連絡を取らず、祐人が地元の役所に就職したにも関わらず、会っていません。

町の科学館の館長が亡くなり、そのために4人は再び科学館に集まります。科学館は、その頃、4人のたまり場でした。

夢を叶えた者、諦めた者、つかみかけた者など、中高時代の願いの結果が出ている年齢で再び「夢」をテーマに人生が動き出す――。

観念が先走っており、読んでいて心に迫るものがありません。

ミステリー仕立てなのですが、それもあっけなく、結局何のためのミステリーだったのか不明でした。

人物造形もあまく、人物の書き分けもできていません。セリフは誰もが同じようなトーンでしゃべり、唯一、元気のいい薫だけがわかる程度です。

理奈にバイク、ビールというガジェットがどのような効果を与えているのでしょうか。

秀才だった春樹が家業の電気店を継いでいることはどのような想いでいるのでしょう全く処理されていません。

繊細なようでいて、杜撰です。

ただ高校生の直哉と河村はいい雰囲気を出していました。著者は執筆当時16歳ということですが、やはり年齢相応のものがいいのではないでしょうか。

選評を読んでも、誰も推していないのに受賞してしまいました。「16歳」に選考が引っ張られたとしたら、信頼していた小説すばる新人賞だけに残念です。



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2017年03月10日

書評 第8回日経小説大賞『姥捨て山繁盛記』

第8回(2016年)日経小説大賞受賞作
『姥捨て山繁盛記』 太田俊明

日経小説大賞も年々軽くなっていきますね。

タイトルも内容を表わし過ぎて、本を開く前から読んだような気になりますし、物語も予定調和でサプライズが全くありません。

物語展開ありきの人物設定で、残念でした。

昭和30年代に大きな水害によって祖父、母、弟、妹を失った桝山太一は、高校から故郷の穂津盆地を出て一人暮らしをし、東京で就職します。家族を呑みこんだ穂津川を見たくない、自分だけが幸せになっては申し訳ないという思いを抱いて。

しかし、平成8年、ワイナリーを経営していた父親が急死し、その跡を継ぐために故郷に帰ります。

一方、現代となり、家電メーカーの人事担当役員だった西澤亮輔は59歳で認知症を患い、会社を早期退職。妻もすでに故人となっていた彼は、山梨県穂津村の介護付き老人ホームで暮らすことになります。そこを終の棲家とするばかりではなく、自殺場所も決めてしまいます。

その時、亮輔は穂津盆地に取り残された小さな村落に足を踏み入れます。穂津盆地はダム建築のため、水没する予定になっています。他の地区の住民は補償金をもらって移住が完了していますが、この地区だけは、高品質のワイン、ジャムなどが都会のセレブ達に人気で、経済的に自立しています。

老人ホームで亮輔と一緒のユニットに暮らすのは、人はいいけど調子もいい鈴木、元総務省官僚の山崎、東京の一流ホテルの料理長を務めた森。そして同じホームにはパン焼き名人の広瀬がいます。

この設定が並んだ30ページで、この後の展開がほぼ読めてしまいます。

ダム問題、天災、老人の活用、限界集落など、現代の社会問題を盛り込んでいるのですが、あまりにも類型的で、あまりにもお手軽に物語が展開します。

登場人物みんながいい人で、能力が高く、スイスイと問題を解決していきます。

特に読む意味を見いだせず、あまりいい読者ではありませんでした。




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2017年03月04日

書評 第11回小説現代長編新人賞奨励賞『あの頃トン子と』

第11回(2016年)小説現代長編新人賞奨励賞受賞作
『あの頃トン子と』 城 明

養豚業を営む40歳目前の洋一が、発育の悪い子ブタにトン子と名付け、「お手」や「お回り」などの芸を教えます。すると意外にもトン子は数日で身につけてしまいます。トン子にピンクのリボンをつけ、洋一は可愛がり始めます。

そこへ、幼馴染のマナブが帰郷してきます。頭のよかった彼は高校卒業後、家業の酪農業を嫌い、東京の大学に出て、そのまま就職、結婚したと聞いていました。

しかし、離婚し、ぐうたら過ごすマナブはトン子に興味を示し、洋一の家に押しかけ居候しながら、トン子に芸や言葉を教え始めます。

豚は頭がよく、犬並みに芸を覚えることもあるそうですが、新鮮な題材で、またトン子が可愛らしく、リーダビリティのうまさもあって、スイスイと読まされます。

しかし、どこかこの物語にはざらざらとした違和感が付きまといます。最初はマナブがトン子に対してちょっとずれた厳しさを見せるのが気になるのですが、中学時代の同級生イモ子が登場するに及び、それが作者の男性ならではの鈍感さに由来するものであることに気づき始めました。

すると、小説がどんどん色あせてきました。

テレビニュースに「芸をするブタ」として取り上げられて、とうとう東京進出し、洋一とマナブはトン子とともに上京するに至るのですが、そこからトン子に対する扱いがひどくなります。

決してトン子は幸せにならないな、と予感させられるのですが、この結末はどうしたことでしょうか。ネタバレですが、他の豚と取り違えたのなら、売却先はわかっていますし、家族同然に暮らしていたのですから、洋一は必死に探しに行かないでしょうか。

さらになんとなく丸く収まっているラストにも納得できません。

こうやって事なかれ主義で過ごしてきたから、40過ぎても独身なのかもしれませんが、主人公の性格というよりも、やはり著者の鈍感さに由来する物語の帰着の気がしてなりません。

文章力はあるのですが、長く書き続けるためには多くの読者の支持が必要です。この鈍感さを伴った筆運びで読者がつくのかどうか、疑問が残りました。





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2017年02月11日

書評 第11回小説現代長編新人賞 『お師匠さま、整いました!』

第11回(2016年)小説現代長編新人賞受賞作
『お師匠さま、整いました!』 泉 ゆたか

出版されるにあたり、大幅改稿されたらしく、選評と違っているところが見られます。

年の離れた算術家の夫に先立たれた24歳の桃を語り手に、桃の寺子屋の二人の生徒――両親を災害で亡くした15歳の春、良家の才ある子女・鈴――を描きます。

和算を扱いうのですが、師匠の桃が苦手で、春と鈴が才能をめきめきと伸ばすという趣向によって、葛藤や衝突、人間のあざとさが浮かび上がってきます。小説の中で繰り返し説明し過ぎるところもある一方、なぜ学問に情熱を持てない桃が寺子屋の師匠の座を守るのかはあまり触れられません。この辺りを深く描くと、もっとおもしろくなったでしょう。

また桃が濁流にのまれた春を救うのは、ムリがあり過ぎますし、その後、なぜ平助に嫁ぐのかがわかりません。

ただ三人の女性のキャラクターと生き方、関係性を描き出そうとするのは成功しています。特に春に対して終始温かく描き、魅力的なキャラクターに仕上がっています。

文章もすらすらと読みやすく、わかりやすい。落雁や西瓜のエピソードなどは女性作家らしい細やかさで、印象に残りました。



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2017年02月01日

書評 第3回新潮ミステリー大賞 『夏をなくした少年たち』

第3回(2016年)新潮ミステリー大賞受賞作
『夏をなくした少年たち』 生馬直樹

小学六年の拓海、啓、雪丸、国実は小学校時代最後の想い出づくりのために、町の花火大会の日、立ち入り禁止の山に入り込み、そこで国実の4才の妹殺害事件に巻き込まれます。

その犯人探しがミステリーとなるのですが、それ自体はやや唐突で、動機も弱く、伏線もわかりやすく、リアル感がありません。

しかし、この4人の造形と、この時代の少年少女の心理の移り変わりを読ませます。頭もルックスも性格もいい啓に憧れると同時に諦めを抱く拓海は、繊細で優しい。忙しい両親に代わって妹の面倒を見る国実はいいお兄ちゃんで、しかし友人との付き合いの間に挟まれ、苦しみます。傍若無人な雪丸はやがて皆から相手にされず、「幼い少年」とレッテルを貼られます。

小学6年というタイムリミットのなかで少年たちが生き生きと描かれ、『Stand by me』を髣髴とさせる夏休みの少年物語として立ちあがっています。小説すばる新人賞受賞作のような読み応え。

第2部で20年後の現代となり、刑事となった拓海がある男の殺害事件の担当となりますが、それが20年前の少女殺害事件の真相へと繋がっていきます。

現代の物語は予定調和で、殺人事件の犯人も、物語の展開も読めてしまうのが残念です。

ただ4人のこれからを展望させる閉じがとてもいい。人と人との関係性をリアルに、繊細に描いたデビュー作なので、次作にも期待がかかります。



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