2008年05月12日

書評 新潮エンターテインメント大賞「月のころはさらなり」

第3回(2007年)新潮エンターテインメント大賞受賞作
(選考委員 宮部みゆき) 『月のころはさらなり』 井口ひろみ

17歳の悟は、母親に連れられて
「庵(いおり)のおんば様」の家にやってきます。
そこは御千木(おちのき)と言われる祖父母の住む集落から
さらに山深く分け入ったところで
不思議な力を持った女性が、
神様に仕えるために住んでいる家でした。

その家には「預かり子」と呼ばれる美しい少女茅(かや)と
生意気な小学生の真(しん)がいました。
彼らもまた「鈴鳴らし」と呼ばれる不思議な力を持っていました。
そして母もかつては預かり子であり
自分も幼いころ、鈴鳴らしをしてみんなを驚かしたと聞かされます。

神様の祠や呪文(「月のころはさらなり」という言葉が
入っているらしいが最後まで明かされない)など、
日本の土着性をファンタジー仕立てにしています。

この不思議な力やここで暮らす人のことを
それほど説明せず、神秘性を持たせた前半はよかったのですが
最後は物足りなく感じられました。
いきなりリアルな世界につながって戸惑います。

また父親を母親が殺したのではないか。
誰が車を崖から落としたのか、というミステリーは弱い。
スパイスを効かせる程度ですが
あってもなくてもよかったかもしれません。

しかし全般的にはよく作られています。
ひと夏の物語として、また物語の帰着のうまさが際立っています。
しかし最後になってリアルに、このようなファンタジーが
現代社会に存在し続けるのは無理があることを書くのであれば
もう少し物語世界を作りこんで欲しかった。
それによってふたつの世界の大きな溝が描けたでしょう。



「月のころはさらなり」
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『月のころはさらなり』
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井口ひろみ
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