(選考委員 宮部みゆき) 『月のころはさらなり』 井口ひろみ
| 17歳の悟は、母親に連れられて 「庵(いおり)のおんば様」の家にやってきます。 そこは御千木(おちのき)と言われる祖父母の住む集落から さらに山深く分け入ったところで 不思議な力を持った女性が、 神様に仕えるために住んでいる家でした。 その家には「預かり子」と呼ばれる美しい少女茅(かや)と 生意気な小学生の真(しん)がいました。 彼らもまた「鈴鳴らし」と呼ばれる不思議な力を持っていました。 そして母もかつては預かり子であり 自分も幼いころ、鈴鳴らしをしてみんなを驚かしたと聞かされます。 神様の祠や呪文(「月のころはさらなり」という言葉が 入っているらしいが最後まで明かされない)など、 日本の土着性をファンタジー仕立てにしています。 この不思議な力やここで暮らす人のことを それほど説明せず、神秘性を持たせた前半はよかったのですが 最後は物足りなく感じられました。 いきなりリアルな世界につながって戸惑います。 また父親を母親が殺したのではないか。 誰が車を崖から落としたのか、というミステリーは弱い。 スパイスを効かせる程度ですが あってもなくてもよかったかもしれません。 しかし全般的にはよく作られています。 ひと夏の物語として、また物語の帰着のうまさが際立っています。 しかし最後になってリアルに、このようなファンタジーが 現代社会に存在し続けるのは無理があることを書くのであれば もう少し物語世界を作りこんで欲しかった。 それによってふたつの世界の大きな溝が描けたでしょう。 |
『月のころはさらなり』
井口ひろみ




