私がデビューしたころ 倉阪鬼一郎 「風が吹くまでの長い道」

倉阪鬼一郎は一度、短編集を刊行したのち、作家の仕事がなくなります。
そこで新人賞に応募し続けます。

 もともとは普通の文学青年で、瞳を輝かせて若き日の黄金の読書体験を語るといった幸福からはいささか疎外されている。心持ち眉をしかめて『人間失格』や『車輪の下』などについて語ることは可能だが、むろん進んで語りたくはない。

 というわけで、学生時代はもっぱら純文学の新人賞に投稿して空振りを続けていた。その中の一つは、真夏に発狂した若い警察官が人々の形成する目の壁におびえて銃を乱射して無差別殺人を犯すという話だったから、ひょっとしたら純文学ではなかったのかもしれないが、真相はさだかでない。

 現在の新人賞は各ジャンルごとに細分化されており、かなり網の目が細かくなっているけれども、八〇年代は風変わりなタイプの作家志望者が投稿できる賞は限られていた。しかも、ここなら出せるという賞があっけなく終了してしまったりする。「幻影城」と「奇想天外」には残念ながら間に合わなかったが、純文学からエンターテインメントに転向し、「SFマガジン」のコンテストや「幻想文学」の新人賞などに投じていた。その投稿作品も含めた短篇集がささやかなデビュー作である。

 そうこうしているうちに九〇年代になった。ここで転機が訪れた。ひょんな成り行きで、ミステリーマニアの友人と合作を始めたのだ。

(中略)

 合作を始めた動機はいたって不純だった。岡嶋二人がコンビを解消し、ちょうど合作作家の座が空席になっていた。その後釜を狙って人気作家になるという勝手な青写真を描いたのである。よって、応募のターゲットが江戸川乱歩賞になったのは自然な成り行きだった。

(中略)

 こうして完成した初長篇を投稿してみたところ、なんと乱歩賞の二次予選まで通過した。ベスト16の太字組である。大いに手ごたえを得たわれわれは、次は最終予選、あわよくば受賞をと、気合を入れて次回作に臨んだ。

 ここに落とし穴があった。気合が入りすぎてむやみに風呂敷が広がり、登場人物が百人を超えてしまったのである。後輩にモニターを頼んだところ、「誰がどうなっているのか、何が起きているのかさっぱりわからない」と首をひねる。これでは一次も通らない。役割分担にも変化があった。フィニッシャーに近い役どころにずっと甘んじているほど、私は協調性に優れてはいなかったのだ。


その後、新人賞のストライクゾーンを外した作品を
投稿し続けましたが落選続き。
でもそれらはプロになってから、書き換えられて日の目を見ることも。

第2回日本ホラー小説大賞の最終選考作は落選しましたが
それを連作短編にして別の出版社に持ち込み
これが再デビュー作『百鬼譚の夜』になります。

そこまでの新人賞応募歴があげられています。

 受賞 0回
 決勝敗退 4回
 準決勝敗退 6回
 二回戦敗退 1回
 初戦敗退 21回

また、「新人賞のストライクゾーン」について倉阪鬼一郎が書いています。

 エンターテインメント系の新人賞に何か大きな勘違いをして戦争体験を書き綴ったものを投稿する人がいたりすると仄聞するけれども、そこまで極端ではないにしろ、賞が求めるストライクゾーンと投稿者のそれとがある程度は合致していないと苦戦を強いられる。世間的には不可解とも思われる我流のストライクゾーンに固執していると、落選の連続の憂き目に遭ってしまうわけが。

 ただし、小声であってもひとたび「ストライク」とコールされれば(「こういう球もあり」と認定されれば)、落選作の原型などのストックをたくさん持っているという事情もあり、作家になってからは賞デビュー組より順調に作品を発表できる場合が小生のみならずわりとある。だから、あきらめるのはまだ早いかもしれない。



「ミステリーズ!」Vol.21 2007年FEBより引用


ブログで読みやすくするために改行を入れています。


【倉阪鬼一郎 プロフィール】
1987年短編集『地底の鰐、天上の蛇』でデビュー。
1997年『百鬼譚の夜』で再デビュー。

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