「月のうた」 穂高明
第1回のポプラ社小説大賞優秀賞と比べると こちらのほうが断然おもしろく 著者の筆力もあるので、優秀賞にとどまったのがわからない。 大賞受賞作と比較しても、それほど見劣りしない。 もちろん問題点はあるが、第1回大賞受賞作にも欠点はあった。 どうしてこの作品に大賞をあげなかったのだろう。 出来栄えはとてもいい。 小学4年で母を肺がんで失った民子。 6年の時に継母がやってきた。 頭もよくクールな彼女は 新しい母とも次第に折り合いをつけていく。 民子の家には母方の祖母がいる。 そこに継母をもらうという父は、普段はおとなしい人。 ちょっと変わった環境のなかで 民子の老成した性格が家族に影響を与えていく、 静かで優しく、神秘的な物語。 第1章から第2章に移るときの視点の切り替えがすばらしい。 第1章「星月夜」を民子側から描き 教養もなく料理もできない30女の宏子が浮いている印象を残す。 が、第2章「アフアの花祭り」でこの宏子側から 彼女の内面や育ってきた環境を描くことで 一見、宏子に民子が必要に思えていたことが 民子にも宏子が必要であったことがさりげなく盛り込まれている。 しかし第3章「月の裏側で」を母の親友祥子の視点にしてしまい しかも、それまで描かれたエピソードのなぞりでしかなく 話がふくらんでいない。とても残念だ。 ここを父の姉であり、宏子を嫌い、 民子を溺愛する日出子あたりにしたら おもしろい展開が見えたかもしれない。 読者が密かに嫌悪感を抱く人物を描くことで 人間の裏面が見えてくる、というのもありだ。 また、父親がよくわからない人物のまま終わってしまっている。 彼は家族の中で、世話される人間であるので それでいいのかもしれないが、 例えば、民子に厳しいことへの、納得のいく理由が欲しかった。 ただこの小説は民子の大人びた態度と なんでもできることの悲しさと強さが魅力だ。 民子を形作ってきた祖母の数々の言葉や 宏子の母の明るく強い言葉が思いがけなく心にグッとくる。 「月」に掛けたさまざまなエピソードも活きている。 決して抒情に流されることなく、淡々と描かれるが そこに「月」がなければならない小説だ。 特に「月の裏側は天国」という発想がいい。 希望を月に託していて、思わず空を見上げたくなる。 |
『月のうた』
穂高明



穂高 明



