「東京キノコ」 早川阿栗
今回で文學界新人賞の選考委員を終了する選考委員が多く 選考会に微妙な空気の違いが漂っていたのではないか、 と推測します。 それが島田雅彦奨励賞、辻原登奨励賞という 特別の賞を出したのでは。 しかも受賞作のレベルはそれほど高くない。 ただ選考委員がこの文學界新人賞に 置き土産をしたかったのでは。 けれど受賞者はとてもラッキー。 その運の強さを活かしてほしい。 彼氏と旅行中に、突然わけのわからない怒りが沸いてきて 彼を置き去りにして東京に帰ってきてしまう「わたし」は アパートのアロエにキノコが生えているのを見つけます。 わたしには高校時代、家庭内暴力をふるっていた弟を 両親が殺してしまう、という事件に遭遇し 叔父夫婦にひきとられ育てられたという過去があります。 すべてに対して淡々と、 つまり弟によって傷つけられた人生、 深いところの気持ちまで 「なんにもなかったよ」という彼女の態度と 突然涙がこぼれてしまう癖とが バランスよく彼女のなかに同居しています。 もちろん、突然の怒りはそれらの過去や 自分の態度などから発せられた感情のシグナルなのですが それさえも小説内ではあえて探らない。 日常のなかに溶け込ませます。 ただ事件が大きすぎるので あまりにも淡々としすぎています。 著者の意図がよくわからない。 なぜ「キノコ」なのか。 そしてなぜ「東京」なのか。 もう少し意識的になにかを感じさせてほしい。 |
