「青色讃歌」 丹下健太
28歳フリーターの高橋を主人公に 仕事探しに猫探しをからめ 適度な笑いと納得感のある物語に仕上げている。 この高橋が、少し気弱だがそれだけではなく 頭は悪くなく、なんとなく就職せずに彼女と同棲しているが どこかできちんと生きなければいけない とわかっているところが、 選考委員へのウケをよくしている。 既存の自伝的フリーター小説とは違っている。 フリーター生活を「こっち」とし 社会人を「あっち」と表現し描写がユニーク。 こっちあっちが幾度も登場し さらにネットで生活することを 「こっち」としているのも好感度が高い。 このフレーズやモチーフの繰り返しもうまく活きている。 「割り箸を加えて笑顔を作る」には笑わせられる。 嫌みなく、上手に文章や展開にまぎれ しかしそこにこだわりをもたない。 ドライな著者の姿勢がいい。 しかも突然、「猫と話せる少女」が登場し 物語をポンと違う方向に向かわせる。 このハジケ感が読者を決してそらさない。 さらに物事の二面性をうまく描き出している。 仕事探し、猫探しから連想される「自分探し」も 友だちの揶揄として登場し、その陳腐さを救う。 読者の想定する言葉をちゃんと着地させる。 これは「面倒くさい」にも共通する。 これを小説の閉じに使い、物語をうまく締めている。 サラリとした感触の小説で 明るく笑わせる力量は将来を期待したい。 |
『青色讃歌』
丹下健太

