「雲上都市の怪事件」を「雲上都市の大冒険」に改名 山口芳宏
岩手の四場浦鉱山で 23年間監禁されていた座吾朗が脱走をし 鉱山社長が何者かに殺されます。 完全な密室状態からどうやって座吾朗は脱出したのか。 社長を殺した犯人と、その理由と方法は? 冒険活劇の装いをもつ本格ミステリー。 まず、その舞台背景がおもしろい。 昭和27年という戦後の貧しい時代。 標高1000メートルの山頂に 鉄筋コンクリートのアパート、水洗便所、 全室集中暖房という設備を備えた住居はすべて無料。 映画館や娯楽施設も充実しており 祭りも年に4回開かれ、住民は退屈を知らない。 そんなユートピアで事件は起きます。 探偵が二人登場し、それぞれのキャラクターにあわせた 役割分担によって物語を推し進めます。 特に真野原のキャラクターがユニーク。 左腕の義手を隠そうともせず、それに細工をし 自由自在に捜査を進めます。 登場からして、長広舌のわらしべ長者の体現を語る。 これらの著者の読者サービスぶりがすばらしい。 楽しませることに関しては不足がありません。 その分、トリックや東北地方の人々の言葉、 風俗、習性などは少々、お粗末。 でもトリックの種明かしは真野原が語るので このキャラクター性でごまかされる側面もあります。 個人差があるでしょうが、私は許せます。 新人賞では不利といわれる、著者による 「この小説はシリーズになります」という宣言も この作品ではぜひ読んでみたいと思わせます。 冒険活劇の懐かしい雰囲気が漂い そこに真野原の明るさがあり、魅力的な作品です。 |
『雲上都市の大冒険』
山口芳宏



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