読者賞同時受賞「花宵道中」 宮木あや子
| 最初の一行からぞくりと背筋に冷たい何かを這わせる。 迫力のある文章力に思わず引き込まれます。 艶やかで美しく、はかなく悲しい、 しかし醜く寒い女郎の世界がたちあがっています。 表現力も高く、また巧み。 官能表現も濃密で美しく、小説の核となり またなくてはならないものに仕上がっています。 主人公の遊女・朝霧は男に抱かれながら その肌に赤い花を咲かせていくのですが その設定の美しさと残酷さに恐ろしささえ感じます。 舞台は吉原の小見世(こみせ)山田屋、 時は天保年間。 出火から吉原を追われた山田屋は 深川八幡前に仮宅を移します。 その縁日で朝霧は左の頬に傷のある男に助けられます。 朝霧の下駄の鼻緒は青い牡丹が描かれていて 偶然にも男が初めて描いた絵付けでした。 男はもともと京の絵付け職人でした。 この偶然に、さらに贔屓の客・吉田屋の座敷で 男と再会するという偶然を重ねるのですが ご都合主義になっていない。 青い牡丹の因縁めいた美しさや それに至る過程の言葉の重なりで 不自然さが全くありません。 おそらく遊女に人生の選択が全くないと 描かれるからでしょう。 おはぐろどぶと呼ばれる堀に囲まれた吉原で 出入り口は大門たったひとつだけ。 逃げることもかなわなければ 年季明けに自由になることも恐ろしい。 女ひとりで食べていくのは難しい時代でした。 吉田屋は朝霧の年季明けに身請けする予定でしたが 男に殺され、朝霧の身請け話も流れます。 さらに吉田屋の座敷がなくなり 朝霧の実入りも少なくなり 年季明けそのものが延びます。 そのうち何度も通ってくれているのに 顔も覚えていない唐島屋が朝霧の身請けを申し出て それに従うことに。 儚く悲しい運命に流される朝霧のたったひとつの恋は 誰もがなにも言わないまま、 吉原のおはぐろどぶに捨てられます。 |
『花宵道中』
宮木あや子
宮木あや子