「さりぎわの歩き方」 中山智幸
ニュース記事のリライトライターで生計を立てている 「僕」は29歳。結婚が間近に迫っています。 この主人公がのんびり屋。 焦りや鬱屈とは無縁の思考の持ち主で 新人賞を狙う文学作品にしては珍しい。 一歩まちがえばフリーターとなんら変わらない職業にも かかわらず、その仕事の引き際を予感しても 不安を感じない主人公はある意味、今時の若者なのでしょうか。 それが返って新鮮に感じられる部分もあります。 一人称の文体で、シェアオフィスや そこで働く人、彼らとの付き合い、 同棲中の彼女などの話が進行しますが 途中で挟まれるニュース記事や主人公の感想、 事の成り行きなどが、いい味わい。 欲をいえば、もう少しウィットやセンスを 感じさせて欲しいところ。 それは言葉全体にもいえます。 決して悪くはないのですが キーワードとなる「いまどき、まっとうな」 小さな傷としての「新しい青春の幕開け」などは もう少し気の効いた言葉にならなかったのだろうか。 これだけの物語を綴るのだから、 言葉へのセンスはこれからに期待したい。 全体としてはよくまとまっています。 しかしうまくまとめようとする意図が見えてしまう。 結婚前の最後の羽伸ばし、左手の薬指、幼馴染との再会、 彼の不祥事を踏み台にしての次のステップ。 人間性の深みよりも人生のすべりを描くほうに 興味があるのかもしれませんね。 |
『さりぎわの歩き方』
中山智幸


