『ハラサキ』 野城 亮
結婚を機に、幼少期の記憶がない故郷に里帰りする百﨑日向。途中で小学校時代の友人に再会するも、記憶がないことを言い出しにくく、彼女の言うなりに卒業した小学校に立ち寄ることになります。 その後、旅館を営んでいるはずの両親は、いないばかりではなく、家業は廃業していたことがわかります。その時、近所の商店から火が出て、日向は火事に巻き込まれます。 異世界に迷い込むプロットを、最初は日向の婚約者の視点から追うことで、読者を自然に物語世界に引きずり込みます。さらさらと読ませる文章力で、二段三段に組まれたプロットをすんなりとわからせ、うまいと感じました。 純真無垢に思える日向を二転三転させるのもおもしろいですが、その時の展開によってやや都合よく動いているでしょうか。登場人物の性格は確かに状況によって変わることもありますが、そのような展開にする場合、リアル感のある土台の性格をしっかりと把握しておくと、書き手もぶれにくくなります。 日向が何度も同じことを繰り返すのもうまく語られていますし、怖さもあります。沙耶子のイヤさもわかりやすい。 フィニッシングストロークも新人賞受賞作にしては効いているのではないでしょうか。 |