戦前戦後を通じて活躍した丹羽文雄の小説指南書。1950年代のベストセラーの復刻版です。
「いったい小説作法という万人に向く処方箋的なものが、ある筈はないのである。小説の作法は各人に独自なものである。」と最初に断り、自らの小説作法を「恥をさらす」と言いながら公開しています。
小説の着想、広げ方、テーマ、プロット(構成)、人物描写、環境、描写と説明、小説の形式、リアリティ、文章、時間の処理、題名、あとがき、書き出しと結びなど、項目は多岐に渡り、また「別の問題とも絡む」と小説の複雑さを初心者にもわかりやすく解説しています。
「初心者は日々の自分のなかの動きに敏感になっていなければならない」といった、小説家を志す人が自分について深く考察する一歩を示し、さらに初心者の心得も解きます。
「女靴」のタイトルは失敗だったと反省する告白もあり、大文学者とは自分の作品に対して距離感をもって眺められるのだなと思いながら、それを正直に言える著者に好感を持ちました。
現代の小説指南書と違い、読みにくいかもしれませんが、ふとした一行に大切なことがこめられているので、隅々まで熟読することをおすすめします。
例に取り上げている「女靴」「媒体」も所収。小説の理解が深まるでしょう。