『殺生関白の蜘蛛』 日野真人
元松永弾正の家臣で、豊臣秀次の臣となっている舞兵庫(前野忠康)は、秀吉と秀次双方から「平蜘蛛」と呼ばれる茶釜を探せと命を受けます。松永弾正を裏切ったことのある兵庫に対しての試みでもあり、兵庫にしてみれば平蜘蛛が見つかった場合、どちらに差し出すかという選択を迫られる事態に。 この平蜘蛛がキリスト教に繋がる、大風呂敷な話となるのですが、話のテンポや言葉が地味で、あまりインパクトがありません。大仰なことを着実に語っているのはひとつの成功でもあるのですが、なんだかもったいない気もします。茶道とキリスト教の共通点についてもとってつけたかのようで、あまり興味をかきたてられませんでした。 秀次事件の解釈が変わってくるのはおもしろいのですが、やはりキリスト教を持ち出すのはムリがあるでしょうか。腑に落ちる、という感覚はありませんでした。 兵庫の妻せいが登場するとホッとしました。このような明るい人物を兵庫のそばに置けなかったでしょうか。どんな場面も常にしんねりむっつりと話が進むのでつまらなく感じてしまいます。 安定感やプロットの確かさはありますが、それ以上の魅力が乏しい。時代小説家なのにアガサ・クリスティー賞に応募するのも、何かから逃げている気がします。 |