『ロンリー・プラネット』 雄太郎
生きにくさを感じているエンジニアの桑田は、IT長者が建てた独身者専用マンション「ロンリー・プラネット」に、入居資格の40歳と同時に入居します。しかしここは数回の殺人事件が起きています。 このロンリー・プラネットの生活が一種のユートピアに思えてきます。3000人の入居者は適度な距離を保ち、さまざまな管理はほとんどボランティアによって運営されています。食事はフードコートや飲食店があり、クリーニングやジム、温泉、マッサージ店もあります。買い物もポータルサイトから発注しますが、倉庫は隣のセンターになっており、すぐに受け取り可能です。これらは一般人も利用可能なので、そこで働くこともできます。 もちろん介護システムも完備されています。だから老人が多い。しかも格安です。唯一ペットを飼えないのが難点。 そこで桑田は以前からやってみたかった燻製作りにもハマり始め、 本を読む女性と知り合い、いい雰囲気になります。ジムに行き、筋肉も体力もつけ、人生がここで完結しようとしたとき、やはり殺人事件が起きます。 最近の新人賞応募作には社会に適応できず、死を選択する人、あるいは死にたくなる人を描いた小説が多いのですが、本作でもそれを扱います。生きていくために必要なものがすべて揃い、それを手に入れるだけの金銭に不自由していなくても、人は死を選びたくなります。 桑田と死を選びたくなる人の違いがきちんと描かれていて、良質の小説に仕上がっています。文体も上品です。これは著者の人間性によるものでしょうか。ペンネームと、本のサナギ賞の過去の例から判断すると、もうこの人の小説が読めない可能性が高いのが惜しい。 ガブくんから近未来のロボットへの流れや、登場する映画や本のタイトルのセンスの良さも、ブラックな内容を補い、読ませる作品へと昇華させています。 |