「未知との遭遇」 丹野文月
ひと月前に49歳の若さで逝った兄弟子・朱紋の弟子3人を引き受けるように、師匠から申し渡された紋蝶。京大卒、投資会社サラリーマン経験という異色の落語家の紋蝶は、41歳になっても落語に対して自信が持てません。朱紋が闘病のためキャンセルした大舞台を任される実力はあり、弟子もとってもおかしくはないのですが……。 弟子3人の個性が秀逸で、おかしい。彼らの落語をもっと聞いてみたくなります。 落語「らくだ」をモチーフに使い、題材もうまくこなしているのですが、ミステリー要素としては肩透かしでした。誰も謎解きをせず、著者がペラペラと書いてしまってはミステリーになりません。 また「らくだ」を朱紋の代役で務める舞台でやらない――という決断が軽々しい。ネタバレですが、朱紋を担いだ経験を直後の舞台で活かさなかったというモチーフを活かしきれていません。プロとしての落語家、真髄まで落語家になる意識が低いと感じられます。それだからこそ、弟子もとれず、落語家としても今一つパッとしない前半部分につながるのではないでしょうか。 どこか著者が逃げ腰なのでないでしょうか。それは主人公のキャラクター造形の甘さや、モチーフすべてを活かしていないことにつながっていないでしょうか。 |
📖 「ミステリーズ!」vol.86