『悪い夏』 染井為人
生活保護費の不正受給をテーマの一つに、等身大の登場人物たちで描く群像劇。 市役所に勤める佐々木守26歳は、社会福祉課の ケースワーカー。生活保護受給者の元を訪ねて、生活基盤の構築を促し、社会復帰させるのもひとつの業務です。 不正受給者には受給停止を申し付けるため、市民の生死をも左右する仕事です。同僚高野は、受給者の弱みにつけこんで、悪事を働いています。 佐々木が担当する受給者の山田吉男は、病気を理由にタクシー乗務員を退職し、生活保護を受けています。42歳なので仕事を探せばまだ働けますが、ヤクザと絡んでおいしい仕事もたびたびしている彼は、なかなかそこから足を洗えません。 高野が担当する愛美は22歳のシングルマザー。同じシングルマザーの莉華に教えられて生活保護を受給しています。4歳の娘の美空をネグレクトしながら自堕落に生活し、時々、莉華の紹介するキャバクラでアルバイトをしています。それを高野に知られた愛美は、生活保護を止められないために言いなりになっています。 古川佳澄もまた小学生の息子を抱えているシングルマザー。消極的で覇気のない彼女は、仕事が続きません。生活に窮し、とうとう万引きを繰り返すように。 皆がみな、不幸の淵へと転がり落ちていくクライムノベルです。 とにかく文章がうまい。章や節の始めの一行からすっと物語に入っていけます。セリフ回しも説明も簡潔で、テンポよくすすみます。 愛美の頭の悪さ、佳澄の要領の悪さといった、女性キャラクターのリアル感が秀逸。小説を書く人は世間一般よりも頭がいいですから、こういったキャラクターを描き出すのが難しい。それを難なくデビュー作で書けるのは大きな武器になるでしょう。 しかし、だんだんストーリー展開が読めてしまい、救いのない話になるのが見えてしまったのが残念です。佳澄ももう少し活用できたのではないでしょうか。 横溝正史ミステリ大賞という選択が合っていたかどうかも疑問です。小説現代長編新人賞など、エンターテインメント系の新人賞なら大賞がとれたのではないでしょうか。 |