「蛇沼」 佐藤厚志
仙台の高級靴店に勤める恭二は、農家の二男坊。しかし、農業を拒否し、家族と反目しあうも、故郷の町を抜けられません。 町は徳宝寺と大沼蒟蒻店が何かとぶつかり会っています。恭二は寺の跡取りの裕瞬、大沼家と関わり深い大沼セイコと仲良くし、ともに遊ぶ仲です。しかし、セイコが蒟蒻店の従業員ケイスケによって辱められ、その直後、沼に落ちて死亡してしまいます。自殺なのか、他殺なのか、事故なのか不明のまま、事件は片づけられてしまいます。 何かというと暴力的な場面になってしまうのですが、それが不思議とナチュラルで、描写も的確です。いい意味で気負いがなく、しかし小説の熱量は落としません。恭二の世界が狭いかどうか、自意識がどうかということに頓着せず、ただ田舎の日々を描くだけで、これだけのものが詰まっているということを提示していて、読ませます。 外国人労働者問題が閉鎖された地方で繰り広げられる根源的な問題点も明らかにしているのも、非常に高く評価されるのではないでしょうか。この作者には書きたい小説がたくさんあるように感じました。 ただこなれた文章とは言い難く、これからはそれが課題となるでしょう。 |