書評 第11回小説現代長編新人賞奨励賞『あの頃トン子と』

第11回(2016年)小説現代長編新人賞奨励賞受賞作
『あの頃トン子と』 城 明

養豚業を営む40歳目前の洋一が、発育の悪い子ブタにトン子と名付け、「お手」や「お回り」などの芸を教えます。すると意外にもトン子は数日で身につけてしまいます。トン子にピンクのリボンをつけ、洋一は可愛がり始めます。

そこへ、幼馴染のマナブが帰郷してきます。頭のよかった彼は高校卒業後、家業の酪農業を嫌い、東京の大学に出て、そのまま就職、結婚したと聞いていました。

しかし、離婚し、ぐうたら過ごすマナブはトン子に興味を示し、洋一の家に押しかけ居候しながら、トン子に芸や言葉を教え始めます。

豚は頭がよく、犬並みに芸を覚えることもあるそうですが、新鮮な題材で、またトン子が可愛らしく、リーダビリティのうまさもあって、スイスイと読まされます。

しかし、どこかこの物語にはざらざらとした違和感が付きまといます。最初はマナブがトン子に対してちょっとずれた厳しさを見せるのが気になるのですが、中学時代の同級生イモ子が登場するに及び、それが作者の男性ならではの鈍感さに由来するものであることに気づき始めました。

すると、小説がどんどん色あせてきました。

テレビニュースに「芸をするブタ」として取り上げられて、とうとう東京進出し、洋一とマナブはトン子とともに上京するに至るのですが、そこからトン子に対する扱いがひどくなります。

決してトン子は幸せにならないな、と予感させられるのですが、この結末はどうしたことでしょうか。ネタバレですが、他の豚と取り違えたのなら、売却先はわかっていますし、家族同然に暮らしていたのですから、洋一は必死に探しに行かないでしょうか。

さらになんとなく丸く収まっているラストにも納得できません。

こうやって事なかれ主義で過ごしてきたから、40過ぎても独身なのかもしれませんが、主人公の性格というよりも、やはり著者の鈍感さに由来する物語の帰着の気がしてなりません。

文章力はあるのですが、長く書き続けるためには多くの読者の支持が必要です。この鈍感さを伴った筆運びで読者がつくのかどうか、疑問が残りました。





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