『青が破れる』 町屋良平
いい意味で「調子のいい小説」です。ボクサー志望の秋吉(シューキチ)は、友人のハルオの彼女――とう子――の見舞いに行きます。彼女は難病で、何度も危篤を乗り越えています。 「滑稽でなければ人といられない」ハルオは、事態の重さに耐えきれず、秋吉に見舞いを頼み、秋吉もまた一人でとう子を見舞うようになります。 現実にはありえない展開ですが、軽く、しかし練られたテンポの文章とセリフに支えられ、サクサクと読ませます。不思議とリアル感が生まれてきます。ここでも調子のよさが発揮されます。 同じくボクサー志望の梅生、秋吉と不倫をしている人妻夏澄を交えて、5人の登場人物が動き始めます。 語り手の秋吉の影で、4人がぞれぞれ動いているのがいい。ネタバレですが、そのうち3人が死んでしまうのも、普通の小説なら白けますが、この小説では納得してしまいます。 生きることの切なさ、やるせなさを感じる時、ただ青空を仰ぐしかできない孤独感が小説から伝わってきます。 |