「市街戦」 砂川文次
陸上自衛隊の行軍中に、過去の記憶が入り混じります。 語り手のKは一般大学を卒業し、自衛隊に入隊。イデオロギーや志というものではなく、公務員という選択肢の中から自衛隊を選んだだけというのが、回想からわかってきます。 行軍の最中には、頭の中にさまざまなことが思い浮かび、些細なことから過去のことを思い出します。 例えば、レトルトのカレーから、過去に友人Mと行った高円寺の喫茶店のカレーを思い出します。その店に井伏鱒二の詩(だか)が飾られていたことも。 現在進行の話と、過去の話の行き渡りが自然でうまい。何の違和感もなく現在と過去を行き来することができ、どちらの場面も読んでいて頭に浮かびます。 行軍が詳細に語られ、その汗や疲労感もリアルに伝わってきます。 やがて、吉祥寺の市街戦へと自然に流れていくのは、筆運びとしてはうまいのですが、それ以上の臨場感のようなものがないのが残念です。 最終的に圧倒的な強さに欠けてしまい、もったいない気がしました。 |
📖 「文學界」2016年5月号