『地の底の記憶』 畠山丑雄
架空の地・宇津茂平が確かに「物語」を孕んだ造形で、どこかにあるのではないかと思わせます。万葉仮名を用いているのも成功しています。 小学6年の晴男と井内は、森の中で美しい人形と暮らす青田に出会います。そこへ行くための条件、タイミングなどもまた物語には不可欠要素として成立しています。 と書いてしまうと、ありきたりな物語になってしまいます。 しかし、そこから長い物語が始まります。意外なほど奥深く、ガジェットの繰り返しもおもしろい。マシュ、ラピスラズリ、鉱石ラジオ、塔などの言葉が話を語る中でキラリと光ります。 難点を挙げると、ストーリーを語るのにするする語りすぎることでしょうか。読んでいる最中も、心に引っ掛かるのはガジェットの言葉の魅力だけで、読後に何も残らない。「うまい引っ掛かり」を作り出すと、より印象深い物語になったのになあと残念に思いました。 |