『深山の桜』 神家正成
南スーダンに派遣された国際連合第五次派遣施設隊を通して、自衛隊のあり方を問う骨太のミステリー。 定年間近の准陸尉亀尾忠二と、陸士長の杉村泰悌(やすとも)が探偵役となり、部隊内で起きた盗難事件を追います。陸上自衛隊員の階級やキャリア、上下関係などを交え、詳細に人間関係を描きます。決して説明調ではないのですが、やや退屈です。 しかし少年工科学校から叩き上げた亀尾は語学が得意で、さまざまな海外派遣では重宝されてきた自衛官。その彼が部下はもちろん、階級は上の後輩たちからも慕われる理由がわかるのは、これらの記述があるから。 また、南スーダンに布教活動に来ている女性宣教師の東(ひがし)の存在がユニークで、男性ばかりの物語におもしろい華を添えています。 そこに派遣施設隊隊長の元に撤退を促す脅迫メールが届き、さらには小銃弾も盗まれ、東京から中央警務隊で数々の事件を解決してきた(らしい)植木が南スーダンに乗り込んできてから、小説は一変します。 ネタバレですが、植木はオネエ言葉。彼は亀尾の親友自衛官の息子。幼い頃から親しんだ二人の会話が、小説を読みやすくします。 物語も反政府軍の襲撃などで緊迫感を増し、杉村の自衛官として、一個人として、人間としての生き方を問う場面も読ませます。 1993年のカンボジア派遣での亀尾のエピソードも、南スーダンでの事件を盛り上げます。さくらとイサムのエピソードはホロッとさせます。 法整備されないまま派遣される自衛隊の現場での苦労や鬱屈、他国軍隊からの温かい扱いなども考えさせられます。 これらの事件の原因となったことに、「法律や権益、固執、日和見主義、数えきれない数多くの見えない敵との闘い」とありますが、「国民の無関心」も含まれると思いました。 折しも日米防衛協定指針、国際平和支援法案など新たな動きが出ています。それらに対して、真剣に理解しようとしていなかった自分を反省しました。 また海外派遣された自衛官の自殺率が高いというのも知っていましたが、理由までは想像も及びませんでした。 自衛隊のあり方が戦後70年たって変わらざるを得なくなっているのは事実で、政治家も含めて国民誰もが平和を望んでいるのも事実。それなのに政府、法律と現場で乖離が生れるのはなぜなのか、改めて考えてみたいと思わせる力を持った小説です。 |