『恋と禁忌の述語論理(プレディケット)』 井上真偽
大学生の森帖詠彦が、天才数理論理学者の叔母、硯(すずり)さんに殺人事件の推理の論理学的検証を持ち込む連作集。さまざまなパターンの殺人事件を取り上げます。 再就職を祝う、友人たちが企画したパーティーで主役が中毒死する。故意か事故か。過去に難事件を解決してきた花屋探偵のあやめさんによって推理された事件。 雑居ビルのトイレで殺されたイタリアンレストランのウエイトレス。彼女を殺したのは誰か。詠彦の大学の先輩、中尊寺有によってレストランのオーナーシェフが犯人とされた殺人事件。 雪に閉ざされた洋館の離れで、売出し中のハーフアイドルが絞殺された。犯人は彼女の遠い親戚の双子の姉妹のうちのどちらか。しかし一人はアリバイがあり、一人は両腕を怪我している。青い髪の異色の探偵上笠丞(うえおろ じょう)は双子の妹を犯人とした事件。 読者は、まず、殺人事件を読まされます。そして、その後、硯によって数理論理学的に紐解かれ、証明されます。ミステリーにつきものの動機は無関係に、事実だけを取り出し、命題をシンプルな数式によって分析します。 この二段構えは、わたしは最初の数式くらいはついていけましたが、二つ目からはただ字面を追うのみでした。 しかしこの二段構えにはきちんと理由があり、それが明らかになります。 物語のつかみも、硯の留守中に、彼女の家に上がり込んだ詠彦が、彼女が残した数式を説くことで、彼女の居場所をつきとめる――しかも意外な場所――と工夫されています。タイトルと前宣伝によって身構えさせられた姿勢がやわらぎました。 リーダビリティもセリフも、ライトノベル調を取りいれながらも自然に流れていきます。あまりにも頭のいい、そつのない小説で、この著者は小説などすぐに飽きてしまいそう。 多才な能力を別の方面でも発揮しそうな新人作家です。 |