「美しい果実」 唐瓜 直
賞の名前から怪談がとれて、『幽』文学賞になって初めての選考。それにふさわしい受賞作でした。 植物性皮膚硬化症候群という難病で昏睡状態になった妻・恵理。彼女の希望で、農園に埋める夫。やがて妻から樹木が生えて、おいしい果実となります。 周囲には、やはり同じように植えられた女性が枝を伸ばし、果実となっています。 一種のカニバリズムなのでしょうけれど、見た目は人間の身体でも中は果実で、その描写が美しくおいしそう。全く気持ち悪さを感じさせません。 絵理は「男が描いた女」で、リアル感はありません。 しかし、妻を埋めること、妻を食べることへの罪悪感、それを凌駕する生えてきた赤子として絵理、おいしく熟れていく絵理。新しい恵理を見つめる「俺」の眼差しは常に愛を伴い、それがしっかりと伝わってきます。 農園や妻を食べるルールなど設定もきっちりと組まれていて、物語世界が立ちあがっています。月夜の描写も相乗効果を上げています。 抗いがたい罪の魅力に満ちた受賞作でした。 |