「ミックスルーム」 森井 良
男性同性愛者の「部屋」をさまよう弓生の存在感の希薄さが目立ちました。語れば語る程、彼の実社会での居場所がなくなり、本当に「部屋」のなかでしか存在していないように受け止められます。 しかし、彼は故郷に帰らねばならず、それには新宿に午後11時半には着かないと深夜バスに乗り遅れます。 それまでの二時間をどう過ごすか、どれだけ男たちとやれるかが彼にとっては重要なのですが、その緊迫感ですら、夜の中に溶けていきます。 弓生の相手となる男のリアルさと対立させます。奥さんが子供を産んだ日に、見知らぬ男とまぐわう男。信じられないのに、生々しい。 この生々しさと、弓生の浮遊感は魅力ですが、しかしそれ以上のものを感じませんでした。よくあるゲイ小説の域を脱していませんでした。 |
「文學界」2014年12月号