「熊の結婚」 諸隅 元(もろくま げん)
夫には「十年後お互い独身だったら結婚しよう」と 約束した女性がいました。けれど、あっさりと 相手の女性・上原希見子は結婚し、夫は自分と結婚しました。 「二番目の女」の話かと思えば、風変りな夫に負けず この語り手も風変りな女であり、妻。 弁護士としての社会的地位と経済力で夫と息子を養い 淡々と日常の訴訟をこなします。 夫は上原希見子の絵を描き続けて、新人賞に応募し続けます。 「離婚しよう」と言い出すも、一年が経過してしまいます。 噛み合わない会話と人生の行方。 そして夫の失踪。 諦念していますが、どこか語り口がユーモラスで それが重荷になりません。 「だから彼女は結婚した。ということになっている。」 「なんで結婚したのか。 (中略)ということになっている。」 といった反転が延々と綴られます。 独特のリズム感が生れては、消えていきます。 肯定なのか否定なのか、曖昧な記述のなかに 実は日常とはそんなグレーゾーンであること、 夫婦のことなど結局は曖昧であることを感じさせます。 最後の一行には、それはないんじゃないという思いと どこかホッとする気持ちにさせられました。 これも作者の企みにはまっているのでしょうか。 |
