「走る夜」 野上健
思考を移しながら、語り手を変えていくロンド形式の小説です。 メインの話は、青井しげるが7秒台で走りたいという こどもの頃からの願いを遂げる話です。 彼は何年も音信不通の、当時の友人、安井まことを呼び出し 彼にタイムを計ってもらい、アドバイスをもらいます。 青井しげるは30才。コンプレックスを克服したいと思う ギリギリの年齢といえるでしょうか。 これ以上の年齢では厳しいし、リアル感が欠けるでしょう。 まだコンプレックスがコンプレックスとして残っていて それを覆せるのではないかという自己に対する信頼感が どこかに残っている年齢。 しかし、実際には滑稽で、バカバカしく、無意味です。 人間の「囚われ」の本質を浮き上がらせます。 安井まことのパートがもう少し読んでみたかったし、 大島雄大の夢落ちにはがっかり。 しかし、ロンドを繋ぐ筆力は評価できます。 |