『小さいおじさん』 尾崎英子
クラス会をきっかけに再会する28歳の女性三人を中心に アラサーの微妙な心理を過不足なく描いています。 設計士として自立しながらも、幼いころからの母親との関係に どこか縛られている曜子。 エリートサラリーマンと結婚し、湾岸沿いのマンションに住み 娘もいるのに、どこか満たされない紀子。 出版社の契約社員を辞めた理由を考えないようにしている、 実家暮らしのニート朋美。 著者と、物語や登場人物の距離感がほどよく保たれていて 新人離れしたうまさを感じました。 タイトルになっている「小さいおじさん」も 物語のなかでは添え物、しかし重要なモチーフとなっています。 あまりにも小さいおじさんに寄りかかりすぎると すでに手垢のついた話題なので陳腐になりがち。 小さいおじさんの噂をする、嫌みのない性格の朋美、 小さいおじさんにのめり込んでしまう紀子、 全く記憶にも残らないドライな曜子と 三者三様の扱いで物語を進めます。 これは物語全般にもいえるのですが クラス会をきっかけとはいっても、それが三人のなかで どのような変化をもたらすのは、それぞれに委ねられています。 この辺りの描き方もうまい。 淡々と物語が進むようでいて、しかし必ずサプライズを落とします。 ストーリーテラーとしての才能を感じます。 平凡な物語に感じられるのですが、力量を感じました。 多くの女性読者に共感を持って受け入れられるのはないでしょうか。 ボイルドエッグズ新人賞はこの回より入札競争制度になりました。 今までの受賞作では、コミック路線が強すぎて 入札が不調になる気がします。 また出版業界でこの作品の評価が高いので ボイルドエッグズ新人賞受賞の傾向が 変わってきそうな予感のする受賞作です。 |