『世界泥棒』 桜井晴也
女子高校生あやを中心に、ある世界を描写してみせます。 言葉を駆使しながら、思いつくことを次々考えながら、 圧倒的に長く書くにはどうしたらいいだろうと思った結果、 こんなに長くなってしまったんでしょうね。 世界泥棒が世界を盗み続けた結果、そこにはもう夕暮れしかなくて でもそれが蜜色という、どこかロマンチックな風景が 象徴しているように、著者は美しい世界を実は描きたかったのでは。 幽霊が自由に飛び回り、グロテスクに崩れた顔や体をさらしながらも 本当は美しい世界を信じているように感じられました。 ネタバレですが、結局、世界泥棒VS美しいものを信じた妹という 対立に収斂してしまう。一気に陳腐になっているのが残念です。 あやと彼氏の真山くん、友だちの意味ちゃん、その彼氏の柊くんと、 身近な人間関係を盛り込みながら、物語は終焉へと向かっていきます。 その人間関係も想いも願いも届かず、誰もが擦れ違い、 空しい言葉を連ねるだけ。 この小説で語られる世界は、バスで国境を越えたり、隣町で戦争があったりして、舞台が日本であることを知らしめるだけではなく 地球ではない、どこかにある惑星であることも示唆しています。 テーマは暴力や崩壊する世界でありながら しかし著者の一番の関心事は人間関係であることのように読めます。 さまざまな人間関係に悩みますが、後半、 他者との距離と時間について語られます。 自分と他者の想いの擦れ違い、思考の差が結実しています。 |