『無名の虎』 仁志耕一郎
甲府盆地の大きな3つの暴れ川の治水に挑む時代小説。 個人的に帚木蓬生の『水神』 同じ治水のテーマではやや見劣りがしました。 しかし、土地勘のない甲斐の国の地形はすんなり頭に入り 戦さと農作業、洪水に苦しめられる人々の暮らしが身に迫ります。 戦さで右腕が動かなくなった主人公軍兵衛が 出世の立たれた武士の身の置き所のなさ、 人生を勝ち組負け組で考える生き方に悩むのは 現代人と共有した鬱屈であり、読ませます。 妻のおゑんの人物造形はやりすぎの感がありますが 『玉兎の望』では女性が類型的だったのと正反対で 躍動感があり、記憶に残りました。 またセリフのテンポの良さは 時代小説を読みなれていない読者にも心地よく響くと思います。 新人賞受賞作としては、やや迫力に欠けますが 手堅いテーマと筆力で受賞を勝ち取りました。 |