『Sのための覚え書き かごめ掃除連続殺人事件』 矢樹 純
青森の雪深いかごめ山にある縁切り寺。 現代では、夫からのDVを避けて駆け込む女性の救済住宅です。 そこに大学の同僚準教授三崎忍から連れて行ってほしいと頼まれ 同行する語り手の私。 私の出身地であるこのP集落とかごめ山、縁切り寺にまつわる 風土的逸話の数々がおもしろい。 横溝正史を髣髴とさせるミステリーの王道ですが 集落内のいじめが必要悪であり、娯楽であるとまで言い切ります。 しかし心理カウンセラーの桜木が登場した途端、 ミステリーは妙な方向に傾き始めます。 ネタバレですが、精神疾患を患った人や妊婦が駆け込んで来たら このお寺もいい迷惑だなーと思いますし(理由は語られますが) 度重なるどんでん返しで性別不明、氏名不明となり、訳が分からない。 ただ、語り手の正体がわかった時の驚きは 新鮮さがありますし、探偵役の桜木の飄々とした性格は どろどろしたミステリーを救っています。 実際、彼のようになんとか世間と自分との折り合いをつけて 自我を通している人のほうが生きやすいし このような人物像を描くのも一つの方法と思われます。 (好悪は別にして) それから「私」が薫子に一目惚れするのがいい。 人に恋することは、人格も性別も軽々と飛び越えてしまう。 ネタバレですが、純としても忍としても薫子に惚れているんだな と推測しました。うじうじと考えてばかりの純の たったひとつの飛翔が活きています。 |