普通の大学生が「なんとなく」公園にいて、友だちを助けに下田に行き、ヤクザの抗争に巻き込まれ、そのままニューヨークへ流れていきます。 ただ流されていく若者たちは、「なので」さえ「で」に省略して、時間も空間もすっ飛ばします。 時間軸も最初に「4時間前に戻そう」とおもしろい仕掛けがあるのかと思いましたら、いつのまにかこれもやめてしまう。文学的な細かな技法さえ、途中で投げ出すのもリアルな感情なのでしょう。 なにも継続していかないのに、ただ流されていく自分だけがいて、しかし意識も飛び飛びになる。気がついたら「グラウンド・ゼロにいた」というのが、リアルな若者の意識なのでしょう。 文章力は悪くはない。きちんと暴力も逃避も描写され、意味性を消す努力も見られます。細かなエピソードもうまい。 でもインパクトに欠けます。 |
書評 文藝賞「公園」
第43回(2006年)文藝賞受賞作「公園」 荻世いをら