「いやしい鳥」 藤野可織
人物造形やストーリー、物語性などの読ませる要素をふんだんに、また著者の持てる力を発揮した小説です。 奇妙な行動を示す隣の家の主人が気になる主婦の内田百合。 その奇妙な行動の男・高木成一。 この二人の視点から、高木が巻き込まれた不可解な鳥事件を描きます。 小説の前半では内田百合の視点が必要かどうか疑問でしたが、なるほど彼女の存在は一種の清涼剤であり、隣家を俯瞰する視点、ブロック塀を隔てた日常と非日常、そのブロック塀を猫が渡り歩く自由まで描くためのものです。内田の視点があるからこそ、小説世界が完成しています。 また、しがない大学講師の高木成一がたまたま参加した学生の飲み会で、連れて帰ることになったトリウチの傍若無人さがおかしい。 これも他の学生から「ホリウチ」だと聞かされていたのに、実際は「トリウチ」だというエピソードもおかしみをもつ描写で、二人の出会いを描く。タクシー運転手を巻き込んだこのシーンは思わず笑ってしまいました。 この日常性と、どこか人を食ったようなおかしみで、これから展開される「ありえない小説世界」へ自然と流れ込みます。 さらに読者を楽しませようとする小技の笑いが、要所要所で効いています。それともこのような小さな笑いを取らずにはいられない書き手なのでしょうか。 もちろん、トリウチが巨大な鳥になり、高木に襲い掛かり、さまざまな手段で悩ませる展開も独りよがりにならず、読者にも殺意を抱かせるいやらしさが描けています。インコを喰らい、さらには高木に襲い掛かるトリウチは、突然襲い掛かる迷惑な他者の存在を彷彿とさせ、寓話的なおもしろさが生まれています。 まだまだこれからも「書き続ける力」を予感させるデビュー作。次はどんな作品を書いてくるのか、楽しみな新人作家です。 |

藤野可織

