綿矢りさ、羽田圭介など10代の受賞者を輩出してきた文藝賞。また17歳の高校生がとりました。 引きこもりのまなみは、ヘンリエッタという名前の家で、あきえさんとみーさんと暮らしています。水のような空気を湛えたヘンリエッタは、世界でたった1ヶ所のまなみの居場所。まなみの体を優しく通り抜ける空気は、瑞々しい描写により質感や色まで伝わってきます。 この雰囲気が最後まで維持されます。透明感と優しさのある描写は、高い筆力を感じますが、この繊細さが「高校生だから」というよりも、「中山咲だから」にすでになっているところがすごい。 あきえさんとみーさんが仕事に出かけた後、まなみは家事をしながら、不思議な少年ヒロトの訪問を待つ。そのゆるやかで満ち足りた時間。 朝、まなみがほんのわずか外出できる短い時間に訪れる牛乳屋の少年。この淡い期待感。 気の合わない母親の車に乗せられる。その恐怖と緊張感。 やさしいあきえさんと、裏表のないみーさんとの生活の情味。 そしてなによりも存在感のあるヘンリエッタ。 ヘンリエッタに流れる時間、情味を最初の1ページから伝え、読み手を虜にします。 また引きこもり小説は今、花盛りなのですが、「キラい」「ヤダ」「コワイ」というネガティブな小説ばかりを選考委員は読まされています。その点、この小説はありきたりな引きこもりを、「好き」「感謝」「やさしくされる」という言葉で飾ります。幸福感に満ちている引きこもり小説。 |
書評 文藝賞「ヘンリエッタ」
第43回(2006年)文藝賞受賞作「ヘンリエッタ」 中山咲