「こどもの指につつかれる」 小祝桃百々子
二人称のような不思議な文体で、 65歳の「ハル」の身体、習慣などが静かに綴られます。 「です・ます調」ながら読みにくさを感じさせない筆力です。 この語り手は果たして誰? と疑問を持ちながら読み進めると、 40代半ばで失った左手だということがわかります。 存在しないはずの左手が幻として認知されることは 広く知れ渡っていますが、幻となった四肢が存在することに驚き その時にはすっかり小説世界に取り込まれていました。 小学生の男の子を育てるシングルマザーや 迷惑ばかりかける弟、 その弟がいつも関係する妻との出会いと別離、 そして腕を失くしたことさえ、弟が絡みます。 並べてしまえばよくある話なのに この著者にかかると、興味深く読ませてしまう エピソードやモチーフとなります。 一つひとつの文章の完成度も高く、どれだけの時間をかけて、 心をこめて紡いでいるのかが想像できます。 もっとこの著者の作品を読んでみたい。 そんな魅力的な書き手です。 |
