『恋都(こと)の狐さん』 北 夏輝
一年ぶりのメフィスト賞受賞作なのですが 不調を反映するかのように、平凡な作品でした。 奈良の女子大に通う「私」20歳。 彼氏いない歴20年。 奈良の各地で行われるイベントに1人で参加する変わった女の子。 東大寺二月堂の豆まきで狐の面をかぶった青年狐さんと やや年上の美人・揚羽さんと知り合い 奈良イベントを満喫します。 傲岸不遜、博覧強記の狐さん。 美人でさっぱりとした気性の揚羽さん。 地味でまじめだけが取り柄の「私」。 登場人物もセオリー通りの設定。 元小児科医の飯田も含めて 偶然ばったり出会いすぎなのもご都合主義で 予想通り「私」は狐さんに惹かれていきます。 途中でファンタジーめいたエピソードが挟まれるのも この頃の古都ものにありがちなパターン。 なによりも恋の結末を「私」が勝手に頭の中で 決めつけてしまい、ぶつかっていくことがない。 脳内妄想がもともと多いのですが この結果では読んだ甲斐がない。 狐さんも引きこもりですが 「私」の脳内引きこもりも重症。 著者の肩を持つのなら、こんなふうに自己完結して 相手に気持ちを伝えなければ、恋愛はできないと誰もが思うので 「恋愛をしたい、彼氏が欲しい」と願う主人公が なぜ恋ができないかは一目瞭然。伝わってますね、その点は。 文章力は悪くないのですが、女性のモノローグにしては 男性的なところが目立ちます。まずは男性の一人称、 あるいは三人称一視点で書いた方がいいのでは。 また小さなミスですが、方向音痴の「私」が スイスイ奈良の町を歩きすぎますし、 狐さんは目覚めたら退院していいという話だったのに ずっと入院して小児病棟の女の子と仲良くなってしまうのも 矛盾しています。 メフィスト賞はもっとはじけていて 新鮮で、驚きに満ちているはずなのに期待外れでした。 |


北 夏輝

