「髪魚」 鈴木善徳
「雨に人魚」でまたか――という印象。 とかく新人賞応募作にはこのモチーフが多い。 しかし、この作品はその人魚が老人で 泥にまみれ、うめき声をあげ、言葉は通じません。 普通ならとても拾う気にならない人魚を それでも語り手は拾ってしまいます。 そして周囲に話すと意外にも人魚を飼っているのは 珍しくなく、人魚屋まで存在し、 それがリアルに傾いた個人商店であるのも、さらにいい。 その場所が赤羽という由来もおかしい。 この人魚は語り手に幻影的な風景を見させたり、 内省的な語りを誘うのですが その内容がやりすぎの感があり しかもオーソドックスな夢のようでつまらない。 もう少し工夫がほしいところです。 家電をむやみに買ってしまうくせはあるものの 部屋は殺風景で、さらに会社は傾き ボーナスカット、給与カットへと坂道を転がり落ちる。 人魚との溝が埋まりつつあるのに、 語り手の足元が傾き、その土台を揺らしていきます。 この不安定感は、幻影的な描写よりもずっといい。 |
