「無限のしもべ」 木下古栗(きのした ふるくり)
ある若い男の妄想、妄言を並べたてたよくある手法。ひとつの段落が長いが、文章は短めに切っていて、独特のリズムを生み出している。 マンションの隣の部屋で寝ている男の赤いソックス。マンションの駐車場でお茶をする4人組のカラフルな服など、色を効果的に使い、リアル感がある。途中まで妄想とは気づかなかった。 考えてみればそのマンションの住人ではないのに、駐車場で優雅にティーカップを傾ける若い男女などいるわけがない。マンションの住人であってもやらないだろう。 この小説のどこがいいのか、さっぱりわからなかった。妄想だとわかったときに、すっかり興味も失せた。読むのが苦痛なくらい、エピソードがつまらない。 ところが最後の文節が異常にうまい。 こういう妄想小説のラストは難しいのだが、こんな閉じ方があったのか。逃げ方といってもいい。確かに次の作品を読みたくなってくる。 |
群像 2006年 06月号