文学の参考書

純文学を書く人は生まれながらにして小説家だと思うので、参考書は必要ないと思うのですが、なにかの手助けになれば、と思うラインナップです。


戦前戦後を通じて活躍した丹羽文雄の小説指南書。1950年代のベストセラーの復刻版です。
「いったい小説作法という万人に向く処方箋的なものが、ある筈はないのである。小説の作法は各人に独自なものである。」と最初に断り、自らの小説作法を「恥をさらす」と言いながら公開しています。
小説の着想、広げ方、テーマ、プロット(構成)、人物描写、環境、描写と説明、小説の形式、リアリティ、文章、時間の処理、題名、あとがき、書き出しと結びなど、項目は多岐に渡り、また「別の問題とも絡む」と小説の複雑さを初心者にもわかりやすく解説しています。
「初心者は日々の自分のなかの動きに敏感になっていなければならない」といった、小説家を志す人が自分について深く考察する一歩を示し、さらに初心者の心得も解きます。
「女靴」のタイトルは失敗だったと反省する告白もあり、大文学者とは自分の作品に対して距離感をもって眺められるのだなと思いながら、それを正直に言える著者に好感を持ちました。
現代の小説指南書と違い、読みにくいかもしれませんが、ふとした一行に大切なことがこめられているので、隅々まで熟読することをおすすめします。
例に取り上げている「女靴」「媒体」も所収。小説の理解が深まるでしょう。



ふと思いついて小説を書き、新人賞に応募したら受賞してデビューしてしまい、スランプもなく30年以上作家を続けている村上春樹。作家になるべくしてなる人というのはこういう人であり、天才型だといえます。ですからほとんどの作家志望の方には参考にはならない、小説家として働くことに関するエッセイです。
しかし、「とりあえず本をたくさん読むこと」「(小説を書く前に)子細に観察すること」「そこにあるものをとにかくひっかき集めて、(中略)ぽんとマジックを働かせる」「キャラクターを立ち上げるにあたって、脳内キャビネットからほとんど無意識的に情報の断片を引出し、それを組み合わせている」など、やはり参考になるでしょう。
1800枚前後の長編小説を3回書き直す推敲方法など独自のやり方も興味深い。日本で叩かれたため、視線を世界に向けたのも慧眼です。



新人賞選考会、選考委員、応募作について、新人賞選考委員の立場から書いた
新人賞のとり方。純文学に限らず、エンターテインメント、詩の新人賞にも共通します。
選考委員は「文学史の地図」を持ち、作品のなかの痕跡を見つめて、分析をしながら、
新人作家の将来性を見ます。
新人賞応募作を書くために、「書く他者」と「読む他者」、「批判する他者」を
自分の中に持ち、書くことにつきまとう恥じらいを意識」し、デビュー作は
「ただしい暴走でなければならない」。全体を通して、これらのことを説明しています。
2000年以降、著者が書いた朝日新人文学賞(現在休止)、群像新人文学賞、
すばる文学賞、中原中也賞(対象現代詩・新人賞ではない)、文藝賞、
坊っちゃん文学賞の選評も掲載。これらを読むと、より選考会や受賞作に
求められるものが見えてきます。また選評の読み方もわかるようになります。



紹介したいと思っていた指南書が丸山健二文学賞創設をきっかけに
復刊しました。文学賞は本当に受賞者が出るのか疑問ですが
本書は純文学作家志望者必読書。
男の書き手に向かって書かれていたり(男尊女卑ですし)、
ワープロ否定、専業作家の勧めなど、時代に合わないところも
ありますが、孤独で、個性だけが頼りの文学の海に
漕ぎ出そうとする人にとって参考になることの方が多い。
群れずに、文学以外の仕事を引き受けず、
編集者の言いなりにならない作家への道を書いています。
特に新人賞応募作への取り組みは、一度やってみてほしい。
推敲に悩む人には効果的な方法でしょう。
ナルシシズムの否定、売れた後の毒出しも、さすがに丸山健二。
彼の文章のうまさも感じてほしい指南書です。



芥川賞、谷崎賞作家の阿部和重が
10人の女性作家の人生相談にのりながら
創作論や作家としての生き方、
人生のとらえ方などを指南する対談集。
角田光代や江國香織、朝吹真理子との文学論、創作論は
小説を書こうとするとも、なかなか筆が進まない人にも
ヒントになります。
文学は、思いつくままに書くイメージがありますが
構成やコンセプト、キャラクターを決めて書くスタイルについて
言及しています。とても珍しい。
また、妄想が激しく(小説家なら職業病)、
恋や人間関係に悩む川上未映子、綿矢りさ、加藤千恵、
島本理生などの章も参考になるでしょう。
さらに川上弘美の編集者との距離、
ときめきがなくなった桐野夏生など。



『実戦 小説の作法』を再編集した本。
小説の基礎から、擬声語、擬態語、比喩、感情語といった描写、
地名や人名、タイトルなどのコワザ、
文体やうまい小説の技法まで網羅しています。
自作の「東池袋」や「福猫小判夏まつり」も収録。
小説のエッセンス的な要素が多いので
純文学系小説指南書の2冊目、3冊目として読むのにお勧め。
著者は作家、日本大学芸術学部教授、
小説作法のカルチャースクール講師。



小説と同様に、端正な文章で小説の書き方を綴っています。
文学のジャンル分け、小説に書くこと、読者の心をつかむこと、
キャラクター設定、タイトル、方言の効用といった
小説作法に関する知識を網羅しています。
特に、語り手(視点)の分類、対話や描写の速度、
トポロジー(小説の場所)、小説に流れる時間は
「小説をどう書くか」という点でとても参考になります。
他の小説指南書ではあまり読むことができない内容です。
各章の課題も、具体的な内容で取り組みやすい。



『小説の自由』『小説の誕生』に続く小説論。
小説の緩やかさ、小説の視点、書き手と読み手の交流、
文章―主人公―読者の関係性など、小説の読み方、書き方について。
あるいは読まれ方から書き方を考えています。
「小説をめぐって」が連載終了し、本書が一応の区切りとなります。



『小説の自由』に続く保坂和志による小説論。
小説的思考とは? 
小説が生成する瞬間とは? 
小説的に世界を考えるとは? 
小説の可能性を考察する一冊。
小説(文学)を書くことに行き詰まったとき、手に取りたい。



新しい文学を一作ごとに生み出している保坂和志による小説論。
全く新しい視点によって紡ぎ出される保坂文学。
小説の文体、小説の存在、想像や思考の視覚化、
思考の組み立てによって小説を作り上げる手法について
語られている。



既存の小説テクニックでは自分の世界が表現できない、と考えている人に。
今や万人に支持される保坂和志だが
その手法はなかなか受け入れられませんでした。
その彼が「小説を書く」ということの基本的な考え方を
話したものを活字化。
このスピード感は保坂の小説では味わえない。そこも妙に新鮮。
文庫になり、執筆の裏側を記した「創作ノート」が追加されています。



小説の書き方は小説家自らがひとりで見つけるべきもの。
この考え方に基づいて、やや抽象的な方法で
小説の書き方を学んでいきます。
小学生に文学を教えるテレビ番組が
ベースになっているので、言葉は平易でわかりやすい。
付録の「小説家になるためのブックガイド」は
ほかの小説指南書とは違った見方や解体によって
小説を読むことを勧めていてユニーク。


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