「バードメン」 澁谷ヨシユキ
富山から東京に出てきて3年、ビル清掃のアルバイト生活を続ける片岸。社員の入れ替わりの激しい会社で、いい人ほど辞めていく。東京もどこか薄ら寒くて、自分の居場所などない。 東京に出てくる前は、家業を継ぐ間のつなぎで東京に出て来るのは自分ひとりくらいだと本当に思っていた。自意識の高さ、若者特有の「Only One」思考がさらに寒さを感じさせる。 バイト仲間でただひとり気の合うダイが、外資系企業から緊急避難用パラシュートを盗んでくる。あの同時多発テロ以降こういうガイシが増えているのだ、というのが妙なリアル感がある。 ダイはそれを背負って新宿の高層ビルから飛び降りる計画をたてる。 寒々とした物語なのに、勢いがある。つぶされた「Only One」思考が心の中でくすぶっていて、機会があれば飛び出したい気持ちは伝わる。それが無意味な行動へとかきたてていく。閉塞感に満ちた若者であり、甘い思考の持ち主で、ほとんどの若者を代表している。 物語の終末では語られないが、おそらくさらに「ダイ=死」へと向かっていくのだろう。そこの甘さまで描くと物語が閉じたのに、書ききらなかったのが残念。 島田雅彦奨励賞だが、文學界新人賞が「静」の物語だったので、そのバランスから受賞した幸運もある。 |
文學界2006年6月号収録