木村紅美(くみ)
入社して20年、同じ仕事をこなすハイミスの「れいこさん」はひとりひっそり死んでいた。社内でたまにお昼をいっしょに食べる「私」くらいしか友だちがなく、その葬儀やアパートの後片付け、会社内の私物の整理をしているうちに、彼女の過去がだんだんとわかってくる。 とりたてて風変わりな事実があるわけではなく、そこには獏とした彼女の私生活と過去があるだけ。 たった一枚残された男性の写真が会社のロッカーに貼られ、ケータイの待ち受けになっている。 しかしその男性との結末も悲しいほど、なにもない。ただメールの送信記録に、件名「れいこです。」「れいこです。」「れいこです。」と残されているくらい。 まさに「風化」して、砂塵にまぎれてしまう。 それを「私」の回想や「私」自身の会社内での立場、寿退社などを交えて、重層的に語っていく。なにも起こらず、なにも残らない。それでいて物語はしっかりと心に残っていく。 注目したい新人作家。 |
文學界2006年6月号収録
![]() ![]() | 『風化する女』 木村紅美 ![]() ![]() ![]() |