「癌だましい」 山内令南(やまうち れいなん)
末期の食道癌を患う麻美。 「五、四、三、二、一」と章立てし、過去に遡りながら その食欲を中心に描いていきます。 癌のために狭まった食道は、固体を通すことができませんが、 それでも麻美は食品や総菜をスーパーで買い求めます。 もう自分で食事をつくる体力もありませんが 食欲だけは衰えません。 よく「癌細胞が栄養を食べてしまう」というように 癌患者はよく食べます。 また闘病生活での楽しみと言えば「食」になりますので そのせいなのかと思ったら、 もともと84キロある彼女は大食漢で 職場の介護施設でも有名でした。 幼い頃から、祖母の手づくりのものを食べ続けて育ちました。 自分で作ることが当たり前であり、 祖母がつくる昔ながらのおやつや 家庭で作るエビチリの作り方など、 彼女が食生活に恵まれていました。 反面、食べられない自分へのいら立ちを際立たせています。 しかし、彼女はそこから学ぶことも反省することもなく 最後は単なる鈍感小説になってしまったのが残念。 彼女の中にはただ「食べたい」という欲求しかありません。 生命を脅かす病気になってもなお変わらない 彼女の迫力は伝わりますが、小説として深みはありません。 自己愛と悲壮感漂う闘病小説よりはいいかな、というくらいです。 |


山内令南



