『ファディダディ・ストーカーズ』 芹澤 桂(せりざわ かつら)
仲の良かった父と娘が、娘の一人暮らしをきっかけに反目しあい、 娘はボロアパートに引越し、母と弟にしか連絡をとらない。 父はストーカーのごとく、置手紙、ケータイメール、 無言電話、新しいバイト先への挨拶と娘の周囲に出没します。 娘の一咲(いさき)は、「自立」したくて仕方のない年頃で 学費以外の生活費はバイトで稼ぎ カーテンもテレビも洗濯機もない生活に甘んじています。 バイト中も常識のない大人に驚き、憤り、 しごくまっとうで、しかし、どこか余裕のなさも若さゆえ。 そんな彼女の人物造形が、ライトノベル調に語られるなかで 新鮮に感じられます。 この二人のスラップスティックの間に 一咲の部屋の、前の住人にふられた男性が登場し 物語はストーカー事件へと発展していくのも 自然な流れで、読ませます。 一咲の頑なともいえる「自立」への渇望も 本当の理由が分かり、とても納得できます。 この不器用さは著者のなかにあるものなのでしょう。 リアルに描かれています。 一咲をはじめ、登場する女性キャラが「ハンサム」。 さらに次の作品では、どんなキャラクターをみせてくれるのでしょうか。 期待が高まります。 文章力もあり、著者の「まっすぐさ」は魅力的です。 受賞から出版まで時間がかなりたっているので 加筆が多いと思われますが それでも、ここまで読ませる作品にブラッシュアップできる素材が 著者のなかにあります。 特別賞ですが、注目したい新人作家です。 |

芹澤 桂



