『琅邪の鬼』 丸山天寿
秦の始皇帝のため、不老不死の研究を行う徐福塾のある琅邪を舞台に 次から次へと起こる不可解な事件を解決していくミステリー。 謎が謎を呼び、次々に事件が起こるのですが 魅力的なのは、それらがきちんと整理されて 物語を引っ張るストーリーテリング力です。 琅邪の有力者、西王家の壁が逸失。 その息子は恋煩いにかかり、ストーカーとなります。 その相手の女性は別の男性との婚礼前夜、殺されます。 息子も後追い自殺。 さらに彼の主治医も姿を消します。 さらに、西王家の娘は、独身のまま妊娠。 相手の男性は知れません。 また通っていた男は追跡中、突然、姿を消し、 同時に、一人息子の主治医が井戸から発見されます。 また、息子が恋い焦がれた娘も 棺から姿を消したり、成長して、その墓に戻っていたり。 とにかく訳がわからないのですが、それがやけにおもしろい。 しかも、古代中国の資料を丹念にあたり (欲を言えば、巻末に挙げられた資料だけではなく 一次資料にもあたられていることを望みます) 医術、人種、政治制度など、当時の雰囲気が伝わってきます。 これらのミステリーを追うのが 現代でいえば警察官に当たる、求盗(きゅうとう)の希仁。 「琅邪の人々の生活と安全を守るため」と ミステリーのタイプにおさめたため 読者はすんなりと見知らぬ物語世界に入り込めます。 ネタバレですが、張良の名前は 鬼にあてはめるにはやや弱いような気がします。 彼の始皇帝暗殺計画をもう少し具体的に ほのめかす方法もあったかもしれません。 いずれにしてもマニアックな結末です。 しかし、歴史小説に対するスタンス、資料をまとめ上げる力、 筆力すべて申し分なく、これからの活躍に期待したい新人作家です。 |

丸山天寿



