『プールの底に眠る』 白河三兎(しらかわ みと)
1995年、17歳の少年と中学1年の少女が出会う話と 13年後、殺人罪で捕まった元少年の留置所での回想を クロスカッティングしていきます。 この頃、流行りの軟弱な草食系男子の「僕」は、 少女との間では「イルカ」と呼ばれ、 もう一人、物語の主要登場人物の由利など 友だちには「マザ」というあだ名で呼ばれます。 この呼び名ひとつにしても 「名前っていうのは付けられるもので、名乗るものじゃない」 など、独特の世界観を最初から醸し出します。 さらに小学校時代の同級生の死など、 暗さをまとった小説として冒頭から惹きつけられます。 また、もう一人の強い女子「由利」の存在がいい。 僕との友情の強さを感じるし、それを言葉ではなく、 BFの嫉妬、彼女の父親の死などエピソードで語っているのが秀逸。 女子と男子の友情をうまく描き出しています。 欠点は、彼女の二重人格的な要素がやや理解しづらい。 少女は「セミ」と名付けられ、孤独ではかなげな印象が強い。 いじめによって、もう一人の人格を作り出すという類型に したくなかったのかもしれません。 また、焼き鳥屋のおじいさんとの会話の整合性が崩れています。 「僕」の妻が彼女なら、この会話は不自然でしょう。 しかし、殺人罪、同級生の死の意外な真相など、 隠されたものが出てくれば出てくるほど 物語がおもしろくなっていきます。 巧みなリーダビリティで、読者を引っ張る力を感じました。 |

白河三兎



