『ボーダー&レス』 藤代泉
在日問題を日本人側から描きます。 過去を描くのではなく、現代を扱っているのが新鮮。 新卒で入社した会社で、江口理倫(まさとも)は 趙成佑(チョ ソンウ)と知り合います。 ソンウは珍しく、韓国名を名乗っている在日の人でした。 それさえもピンとこない江口は、仕事も楽な労務管理に配属され、 一方、ソンウは忙しいシステムエンジニアに辞令を受けます。 二人の将来像が描ける岐路です。 江口は徹底して大人になりきれない若者で、 一方、ソンウは自分のライフスタイルをすでに確立し 飄々としながらも、自分を持っています。 恋愛、仕事、ファッション。 それらをうまく対比させ、しっかりとした実態をもつ、 しかし飄々としたソンウが光ります。 そして著者は在日の女の子を登場させることで 小説に爆弾を落とします。 在日問題は深く、深く、ソンウを傷つけていました。 それを「飯尾さん」という人物を登場させることで うまくカモフラージュされていたことにも気づきます。 一方、日本人にとって在日は、考えなければならない 様々な問題の「one of them」でしかありません。 もちろん、許されることではないのですが。 アパートのドアの「北へ帰れ」という落書きを 消している二人に、日本人が頭を下げますが そんなことは自己満足でしかなく、在日の人の心には 届かないことは頭ではわかっていても、 それ以外にするべきことが見つからない。 そんな情けない日本人に小説は問題提起しながら しかし、やはりなすすべがない。 もどかしく、やるせなく、腹立たしい。 この問題を小説はうまくまとめていて、 これはこれでいいのですが、 こうしてまた日本人の間を通り抜けていくだけなのでしょう。 安定した筆力とうまさを感じる小説で 題材のうまさ、リーダビリティの高さから 今後も期待したい新人作家です。 |

藤代泉



