「白い紙」 シリン・ネザマフィ
イラン人による日本語の小説。 第105回受賞作「ワンちゃん」に続く外国人の作品で ある一定水準に達していれば、日本人作家よりも 有利さを感じずにはいられません。 というのも、内容は戦時下のイラン国境近くの町で、 淡い恋心を抱く「私」の初恋物語だからです。 あまりにも類型的な小説で、 タイトルの「白い紙」も、教師の言葉、 「君たちの今は、白紙のように真っ白だ。良くも悪くもない。これから君たちがその白紙に色んなことを書いて、色んな色を塗って、色んな絵を描いていく」 「君たちの白い紙を悔いのない色で染めよう!」 からとられています。 これを日本字作家が日本語で書いたら、 陳腐以外なにものでもありません。 イラン人によって、イランを舞台に書かれるからこそ、 許されるでしょう。 この小説の美点は、イランの空気を正確に 日本人の読者に届けてくれることでしょう。 乾燥した気候に、男女の別に厳しいイスラム、 そのイスラムのさまざまな習慣と生活など、新鮮に感じられます。 また、テヘランではゆるやかなイスラムの風習が 田舎の町では厳しく守られていることなども肌で感じられます。 「私」の恋心に、ハサンの挫折への紆余曲折、 ラストのシーンなどもすんなりと読ませます。 あまりにもキレイすぎるのが気になりますが この純粋さは日本人好みといえるでしょう。 また一人称の視点で描きながら、できるだけ、 「私は」という主語を排除した文章が心地よい。 特に冒頭部分の「視覚」での描写がうまい。 くるりくるりと絶えず目を動かし、周囲を観察し、窺う。 思春期の少女の好奇心、視線の鋭さを感じます。 |

シリン・ネザマフィ

