『庵堂三兄弟の聖職』 真藤順丈
2年間大賞受賞作がでなかったのですが 本作は文句なく、大賞にふさわしい作品です。 庵堂家の家業は「遺工師」。 死体のすべてを使って、日用品や袋物などを作り出していきます。 (クジラの解体を思い出しました) 叔父の経営する葬儀社と結託し 遺族からの依頼で、遺工を作りだすのは長男の正太郎。 正太郎は数日間のほぼ徹夜作業をものともしないのですが 一般社会には適応できそうもありません。 三男・毅巳(たけみ)は汚言症で暴力的な若者。 兄を手伝い、遺体を引き取り、遺族に遺工を届けています。 次男の久就(ひさのり)は家業になじめず、 東京で働く、気の弱い青年。 彼が父の七回忌に出席するため帰省し、家業を明らかにし、 家族や兄弟の秘密や関係性を語っていくリーダビリティがうまい。 グロテスクな描写になりがちですが どこかユーモアを含み、職人芸として読ませます。 遺族だけではなく、死んだ人の満足や信頼にも応えたい、 というのは、もはや職人でしょう。 「有機的な死」として昇華させる筆力がすばらしい。 また毅巳の汚言もどこかで尽きるかと思えば 最後まで暴力さを失わず、これはこれですごい技。 著者の真藤順丈は2008年、 この日本ホラー小説大賞をはじめ 第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞、 第3回ポプラ社小説大賞特別賞、 第15回電撃小説大賞銀賞と信じられない記録を打ち立てました。 これは1か月に1本、新人賞に応募するという課題を 自分に課した結果だそうです。 |
『庵堂三兄弟の聖職』
真藤順丈




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