「射手座」 上村渉
御殿場に住む日系ブラジル人家族の元に 東京から男がしきりに電話をかけてきます。 その男から、警備員をしている葛飾のスーパーで 万引きをした妹を捕まえたが、バッグを置いて逃げられ そのバッグを返したい、と日系ブラジル人は聞かされます。 そのスーパーでの出来事――この小説の物語――を 聞くという小説的企みがユニーク。 物語は語り手の届かない所にあり、 日系ブラジル人と男の間にはあまり動きがありません。 しかも赤ん坊が妹から男へ、そして見知らぬ人の クルマの後部座席へと移動していきます。 パスされる命は、物語を通過し、なにも意味を残さない。 どころか、いなくなって過去が精算されたかのように扱われます。 常識的に考えれば、それは重大事なのに。 しかし、ささやかな日本での生活を守りたい日系ブラジル人は 妹を男から守った気になり、次の厄介事――叔父の失踪――へと 呼び出されていきます。 物語は常に日系ブラジル人の周囲にあり、 日系ブラジル人は傍観して、流していきます。 流れていく日常と流れていく人生の出来事が 孤独感を漂わせています。 |
