私がデビューしたころ 芦川澄子 「愛と死を見つめて」のころ

芦川澄子は昭和34年に「愛と死を見つめて」で
「週刊朝日」「宝石」共同募集の第2回に入選してデビューします。

 昭和三十四年に「週刊朝日」と「宝石」が共同募集をした懸賞小説に、私の作文のような小説が入選したのがデビューと云えば云えるのかもしれませんが、その後「宝石」がなくなるとともに、私も自然に消えてしまって幾星霜、私は書き手よりも読み手の地位に安住しておりました。

(中略)

 私は専業作家になるほどの才能がないことを自覚していましたが、「宝石」社の方ではものになるなら作家として育てようというお考えもあったのでしょう、ある時、当時の編集長だった大坪直行さんが、上京した私を江戸川乱歩先生のお邸に連れて行ってくださいました。あの頃、江戸川乱歩先生は神様みたいな存在でしたから、私はただうつむいて固くなっていました。乱歩先生が「あんたの原稿は、誤字脱字がやたらと多い。わからない字は、変な漢字を使わずに仮名で書きなさい」と仰云ったことは肝に銘じております。

(中略)

 私が週刊朝日の懸賞小説に入選して、一番嬉しかったのは、賞金の十五万円もさり乍ら、乱歩先生にお目にかかれたことかもしれません。乱歩先生のお励ましにも報いず、私の人生の終りに近づいて、作家としては結局目が出ませんでしたが、ミステリーの楽しみかたを目いっぱい味わって、悔いのない生涯を送ることが出来ました。

 生まれ変わったら鮎川賞にでも挑戦してみるか? などと云ったこともありますが、ミステリー作家の創作の苦労を思うと、怠け者の私は、やはり、来世でも書き手より読み手の道を選びたいと思っています。


芦川澄子は鮎川哲也夫人。
「鮎川賞に挑戦する」というのは、お宅で言われたジョークなのでしょう。

2007年11月に、デビュー作を含む
『ありふれた死因』を上梓。
作家活動は5年ほどだったようですが
印象深い作品が多く、このように晩年になって
本になることもあるんですね。
ま、鮎川哲也夫人として文壇とのおつきあいが続いている
ということも大きく影響しているでしょうけれど。


「ミステリーズ!」 vol.26 2007年12月より引用

ブログで読みやすくするために改行を入れています。

【芦川澄子 プロフィール】
1927年東京生まれ。甲南高女卒業。
1959年「愛と死を見つめて」が第2回「週刊朝日」「宝石」共同募集に一等入選。
1964年鮎川哲也と結婚。
1967年離婚。のち復縁。



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