『犬はいつも足元にいて』(著:大森兄弟)
『ボーダー&レス』(著:藤代泉 「Re:(リ)」を改題)が
それぞれ単行本になりました。
大森兄弟
藤代泉
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| 1919年、アムール河口のニコライエフスク港 (現在のニコライエフスク・ナ・アムーレ)には 日本の商社島田商会が発行したルーブル紙幣が 町の経済を担っていました。 この日本人によるルーブル紙幣をめぐる経済小説。 今でいえば、地域通貨のようなもので、 最初は島田商会の小切手でしたが、 ロシア革命によるルーブル紙幣の暴落がひどく、 その価値が不安定なため、島田商会できちんと 品物に変えてくれる紙幣に信頼を寄せていました。 そもそも、島田商会がこの町の物資のほとんどを扱っており、 衣食から防寒に至るまで、この紙幣を持っていれば 不自由することはありませんでした。 お金というのは、そのものに価値があるのではなく、 「信用」という価値なのだという経済原理を思い起こします。 現在の日本円とて「日本銀行券」です。 このルーブル紙幣、最初の印刷にはミスがあり、 本来「ピョートル・ニコラエエヴィッチ・シマダ商会」とするところを 頭文字をひとつ間違えたために 「ピコラエヴィッチ」となってしまいました。 町の人はロシア文字の誤りに揶揄を込めて、 この紙幣を「ピコラエヴィッチ」と呼びました。 これも今も海外で変な日本語の看板やメニューではお馴染み。 それがお札であり、人々の命をつなぐというのがなんとも……。 このルーブル紙幣そのものと、 この紙幣が広がる町への興味といった 題材だけでも好奇心をそそるのですが、 その翌年、この町は共産パルチザンによって、 軍人、民間人問わず日本人約700名が虐殺される 「尼港(にこう=ニコライエフスク)事件」が起きます。 その町に紙幣の印刷工としてやってくるのが 黒川という35歳の男。 一触即発の事態を前に、新しい紙幣を印刷しながら 黒川は読者の代わりに、この時代を考え続けます。 島田商会の果たした役割と、それに群がるロシア人の複雑な心境。 広くとらえれば、日清日露戦争後の日本の領土拡大のひずみ。 経済小説ですが、そこには人々の生き様があり、 民族の対立があり、また王政から共産主義への革命という 大きなパラダイムシフトもあります。 とても読み応えがあります。 類型と思われた黒川の美しいロシアの恋人オルガも、 この物語になくてはならない存在へと昇華します。 著者は着実で、安定した筆力です。 史実をふまえながら、自由な想像を感じ、 戦闘シーン以降は一気呵成に読みました。 |
