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2012年01月27日

書評 第18回日本ホラー小説大賞短編賞 『穴らしきものに入る』

第18回(2011年)日本ホラー小説大賞短編賞受賞作
『穴らしきものに入る』 国広正人

冒頭のシーンで、車を洗っていて、ホースに指が入ってしまう。
しかし、たぶん、入らないでしょう。
いぶかりながら読み進めていくと
ホラーというか、ユーモア小説であることがわかり
そこからは楽しめました。

穴に通り抜けられる特殊な体になったことから
穴という穴に入りたくなり、我慢ができない。
人間の「欲」をシュールに描いています。

ただ文章力がいまひとつ。
最初のホースに入ってしまう指はどの指なのか。
どうして入ってしまったのか。
自転車通勤に切り替えたのは
電車に乗ると吊革の誘惑に勝てないからなのか。
読者に具体的なものが見えないシーンや
突然飛んでしまう展開についていけなくなります。

ラストの締めはうまく、ホラーに帰着します。
ストーリーを作る力はあるので
細部まで丁寧に描けば、もっとおもしろい小説になるでしょう。


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国広正人
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2012年01月23日

書評 第3回日経小説大賞 『野いばら』

第3回(2011年)日経小説大賞受賞作
『野いばら』 梶村啓二

現在と過去のある時点を結ぶ一冊のノート。
歴史に新たな視点がもたらされ、
心を揺さぶられる物語です。

種苗会社の買収で訪れたイギリスで
趣味のオープンガーデン巡りで出会った女性から
縣(あがた)は古いノートを託されます。

約150年前に書かれたノートには
生麦事件の直後から日本に滞在した海軍士官
エヴァンズ少佐が書き記した、
市民レベルの交流が描かれていました。

エヴァンズ少佐は香港勤務中にシナ語をマスターし
情報収集でも優秀な働きをしているため
生麦事件できな臭くなった英日関係の情報収集のため
急遽、横浜に赴任します。

彼は日本に憧憬を抱き、日本人の礼儀正しさ、
清潔感、優雅な物腰、つつましさ、
そして日本独自の植物と庭園に魅せられています。

日本語教師として知りあうのが、
武家の出戻りである成瀬由紀。
実家に居場所のない彼女は
横浜まで週に2回出かけられ、
日本語教師として経済的自立が計れることを喜び
熱心に通います。

物語は薩英戦争までのきな臭い、不穏な空気のなか、
日本と日本人を崇拝するエヴァンズと
武家の女性としての嗜みや矜持を持つユキを描きます。

日本では、外国人を恐れ、嫌い、石まで投げる始末。
しかし、エヴァンズはそれも野蛮なヨーロッパ人だから
しょうがないと納得してしまうのは違和感を抱きます。

礼儀や規律正しさだけを強調しているだけで
説得力に欠けます。
エヴァンズがただただ日本が好きなだけ。
よく言えば「親日派」。

現代ではほぼ死語のようになったこの言葉を
当てはめることができるのは日本人として喜ばしいのですが
ここまで敬愛してくれる外国人は珍しいのでは。

もう少し日本を好きになるエピソードが欲しい。
またストーリー展開も新鮮さはなく
手堅くまとめています。

物語の始まりはぎこちなかった筆でしたが
静かに抑えた文章で、美しく、時には哲学的に描きます。


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梶村啓二
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2012年01月21日

書評 第2回野性時代フロンティア文学賞 『ワナビー』

第2回(2011年)野性時代フロンティア文学賞大賞受賞作
『ワナビー』 日野 草

ネットの視聴者参加ゲーム「イリンクス」で
一種のネットアイドルとなった枯神が
そのゲームの補完をブログで語ります。

登録者の中から選ばれた参加者は
ライバルと追いかけっこや物探しのゲームに4回勝つと
あらかじめ申請していた賞品や賞金がもらえます。
その様子を課金動画で流し、ダウンロード数も競わせます。

枯神が語るごとに徐々に明らかになるのですが
そのリーダビリティがまずうまい。

枯神の最終戦において大きな事件が起こり
ゲームそのものも、彼のプライベートもさらされ
動画でも大反響を呼んだらしい。

その「らしい」にたどり着くまで
彼がイリンクスに応募するきっかけ、
1回戦からの丁寧な解説がなされます。

一人称で、過去の出来事と自分の感情を
これだけわかりやすく書けるのは筆力が高いから。

枯神は一般的な二十代後半の男性で
家を結婚する弟に追いだされる形で一人暮らしを始め
深夜のコンビニアルバイトで生活しています。
容姿も頭も至って一般的。

ただし、彼はとっても「いい人」。
ゲームよりも人に気を使い、思いやり深く優しい。
それによりゲームのルールを逸脱してしまう。
それもあからさまではなく、日常のなかでも
常に一般人が選択させられる小さな手助けや
アクションのようなもの。

この「いい人」につけこんでくるのがイリンクスの社員で
枯神担当者のアイスブルー(枯神がつけたあだ名)。

ネットに限らず、マスコミにありがちな
演出とやらせの境界線を枯神に歩かせます。
枯神のアイスブルーの善と悪は
誰もが立場が違えば、どちらにもなりうる程度であるのが
よりリアルです。

途中までは本当にうまく物語を引っ張り
枯神に好感を持ちます。
感情移入してしまうところも多々あります。

しかし最後のどんでん返しが、読者を驚かせるだけのもので
小説上の必要性が全くない。これは不要でしょう。
枯神の告白だけでも十分に小説として読ませたでしょう。

ただアイディアのおもしろさ、ストリーテラーとしての資質、
文章のうまさは発揮されたデビュー作。
次作も楽しみです。


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日野草
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2012年01月20日

第7回新潮エンターテインメント大賞『ゴールデンラッキービートルの伝説』 発売

第7回(2011年)新潮エンターテインメント大賞を受賞した
『ゴールデンラッキービートルの伝説』(著:水沢秋生)が発売されました。

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水沢秋生
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2012年01月17日

書評 第6回ダ・ヴィンチ文学賞大賞 「笑えよ」

第6回(2011年)ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作
「笑えよ」 工藤水生

小説の文章というには稚拙すぎますが
3人の男女高校生の心の機微を丁寧に描く、
好感のもてる作品です。

おそらく著者の日常をそのまま切り取ったような、
冬や雪の日々を過ごす語り手のヨウ、同級生の橋立、仲平の
ストレートな感情が伝わってきます。

同じクラスのなかで、予備校が一緒というだけの3人が
受験勉強を共有することで、心が近づいていく。

きっかけはヨウのあまり褒められない好奇心ではあるものの
結果はそれぞれに大切なものを残していく。

そこに至るまでのプロセスを
勉強やスポーツ部活といった高校生にとっての日常と
恋愛というやや非日常を絡めながら
急がず、繊細に描いていきます。

意地の悪い南に、つい仕返しをしてしまうヨウですが
こんな女の子は嫌いじゃない。

また、最後のコーンポタージュとその言い訳もいい。
繊細で瑞々しい青春を楽しんでほしいと心から思う。


本 「ダ・ヴィンチ」2011年 7月号





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